シミ
藤村 「大変申し訳ありません!」
吉川 「大丈夫、大丈夫。ぜんぜん大丈夫です」
藤村 「なんとお詫びしたらよろしいか」
吉川 「大丈夫ですから、なにか拭くものを」
藤村 「お客様のその格好いいジーンズにコーヒーをこぼしてしまうとは」
吉川 「あの、拭くもの。なにか」
藤村 「本当に格好いいですね。そのジーンズ。色といい。最高! すごく似合ってる」
吉川 「いいから。ありがたいけど、今その時じゃないでしょ」
藤村 「本当にいいなぁ。それどこのショップで買いました?」
吉川 「拭くもの! それは平時の会話なんだよ! 今は割と緊急事態だろ。なんでそのテンションでいられるんだよ」
藤村 「いや、でもなんか。そのシミの部分も逆にいいですよね。シルエットがパリッとして」
吉川 「よくねーよ! 自分のミスを肯定する方向に来た? 大丈夫とは言ってるけど、喜んでるわけじゃないからな?」
藤村 「いや、でもお客様ってどんなのでも似合うタイプですよね。着こなし力高いです。シミがついたくらいでちょうどいいような」
吉川 「ちょうどいいわけねえだろ。なんだよ、シミがついてちょうどいいって。着いてなかったらもっと良かったよ」
藤村 「こうなるとアレですよね。シャツの方にもシミがないと逆に寂しい感じもしますよね」
吉川 「しないだろ。なんだよ逆に寂しいって。逆も正もないし、寂しさを感じたことは一瞬たりともないわ」
藤村 「なるほどなるほど、そういう考えもありますね。勉強になります」
吉川 「勉強しなくていいから拭くもの! 今はお前の学習タイムじゃないんだよ」
藤村 「いや、でも普通こうなると汚らしく感じちゃうんだけど、お客様はスタイルがいいから。最初からそういう狙いなのかなって思っちゃいました」
吉川 「お前がやったんだろ。思っちゃいましたじゃねえよ。他のやつが思っちゃうのはいいとして、やったお前は思うなよ。自分の罪を自覚してろよ」
藤村 「逆にね」
吉川 「逆じゃね―んだよ。なんだよ逆って。こっちはこんなシミ逆になかった方がよかったんだよ」
藤村 「攻めてますねー! シミがないとか、考えつかなかったな」
吉川 「なかったんだよ! お前がコーヒーこぼすまでは。許そうと思ったけど今はお前の態度を攻めてるよ」
藤村 「わかりますー。ワンポイントでもあるとないとでは全然違いますからね」
吉川 「わかってないだろ。今わかって欲しいのはファッションのことじゃなくて拭くもの。反省して。拭くもの持ってきて」
藤村 「あ、でもお客様だとこういった大きな柄なんかも意外と似合うかも? これなんかちょっとしたパーティにも着ていけると思うんですよ」
吉川 「ちょっとしたパーティはないんだよ! そんなパーティ見たことない。リッツをつまむようなちょっとした感じってなんのためにやるんだよ」
藤村 「ないならやりましょうよ。俺、絶対参加したいですもん」
吉川 「お前のポジティブ・シンキングは天井突き破ってるな。パーティのことよりも拭くものー!」
藤村 「ですからこのジャケットなんかお客様以外着こなせませんし」
吉川 「服モノー! ここ、なんのお店ー!?」
暗転
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