殺し屋

殺し屋 「すみませーん。今キャンペーン中でして……」


吉川  「結構です」


殺し屋 「お話だけでも。今なら一人殺すとおまけにもう一人サービスでお殺しできます」


吉川  「え? なに? なんのお店?」


殺し屋 「殺し屋です」


吉川  「殺し屋!? 殺し屋がこうやって街中で営業かけてるの?」


殺し屋 「昨今の不景気で色々と厳しくて」


吉川  「不景気の前に厳しく取り締まられたほうがいいと思うけど」


殺し屋 「やっぱりご時世的に名前がロシアに似てるから避けられてるのかな、なんて」


吉川  「関係ねーよ。ロシアに似てるからちょっと関わり合いたくないなって人は、人も殺したいと思わないよ」


殺し屋 「いかがですかね? ちょっとしたトラブルなどありましたらご相談いただければ」


吉川  「殺すんでしょ? ちょっとしたトラブルでそんな思い切った結論に至る人はいないよ」


殺し屋 「でもストレス社会ですし。スカッとしたいなと思うことも多いと思います」


吉川  「殺してスカッとする感性の持ち主がもうヤバいよ。普通はもっと大きなストレス抱えることになるんだよ」


殺し屋 「人間関係は完全に良好ですか? 完璧に。何の問題もなく。この複雑化した社会において」


吉川  「ま、そう言われると問題がないわけじゃないけど」


殺し屋 「でしたらもうすぐにでも。登録していただければクリック一つで殺させてもらいますから」


吉川  「お手軽さをアピールされても困るんだよ。こっちは手間がかかるから殺さないわけじゃなくて、普段から殺したいと思ってないんだから」


殺し屋 「そんなに人間関係がよろしいんですか?」


吉川  「よろしいっていうか、あんまり知り合いとかもいないし」


殺し屋 「でしたらちょうどよかった。サークルとかどうですか? 今なら殺サーの姫もいますよ」


吉川  「殺サーがあるの? そういう出会いも供給してるの?」


殺し屋 「うちのサークルは健全ですから。未成年には絶対お酒飲ませないし」


吉川  「殺しはするんでしょ」


殺し屋 「それはもちろん」


吉川  「一番最悪なんだよ。殺しておいてどんなに善行を詰んでも帳消しよ。未成年にお酒を飲ませないのは良いこととして。マイナスがでかすぎる」


殺し屋 「ただうちのサークル一個だけ禁止されてるのがあって。サークル内殺しは禁止なんですよ」


吉川  「そりゃそうだろ。基本的にこの世界はどこでも殺しは禁止だけどな!」


殺し屋 「これを破ると1ヶ月サークル出禁ですから」


吉川  「なんだよ、そのションベンみたいなペナルティは。それで踏みとどまるやついるのかよ」


殺し屋 「やっぱり仲間と会えないのつらいですから。みんなそれをわかってるんでサークル内殺しは開設以来2年でまだ8件しかないですね」


吉川  「多いよ! なんで自重してますみたいな顔してんだよ。誰も守ってないだろ、好き放題殺してるよそれは」


殺し屋 「いえいえ、好き放題やってたらまず9件くらいまではいってるはずです」


吉川  「一件踏みとどまったんだ。出禁一ヶ月がつらくて。そいつもバカだな」


殺し屋 「ただうちのサークルもメンバーがどんどん減ってきてしまって」


吉川  「そりゃそうだろ。仲間内で殺し合ってるんだからな!」


殺し屋 「やっぱり殺サーって名前がコロナと似てるから忌諱されるのかな、なんて」


吉川  「センテンス以外の根本的な問題に気づけよ!」



暗転

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