クレーム

吉川 「それで開けてみたら商品がグチャグチャになってるし、そもそもこれ、頼んだやつと違うよね?」


藤村 「大変申し訳ありません。確認の方させていただいてよろしいですか?」


吉川 「確認てお前、自分で入れたでしょ? さっきだよ?」


藤村 「あ! これは本当にグチャグチャですね。ひどい。なんてひどいんだ。これはひどすぎる」


吉川 「ひどすぎるだろ。反省してる?」


藤村 「私だったらこれもう怒りを通り越して無差別にそこら辺の人をぶん殴るくらいムカつきますね。一体誰なんだこんな風にしたの」


吉川 「お前だよ。さっき。お前がやった」


藤村 「いえ? 私? じゃないと思いますけど……」


吉川 「お前だよ。顔覚えてるもん」


藤村 「それひょっとして横浜流星さんと間違えてません?」


吉川 「間違えてねーよ。ふざけんなよ。言うに事欠いてそんないい面じゃないだろ。お前だよ。横浜流星とは似ても似つかぬお前だよ」


藤村 「あー、あいつですか」


吉川 「誰のこと言ってるんだよ。今まっすぐにお前だけを指し示してるこの指先をなんで躱してんだよ」


藤村 「私、四つ子なんですよ」


吉川 「四つ子なの? 本当に? じゃ、顔が似てるけど四つ子の兄弟がここで対応してくれたってこと?」


藤村 「いや、他の三人は公務員とか会社役員とかやってまして」


吉川 「じゃ、関係ねーじゃねえか。お前が四つ子だろうと。さっきのやつは兄弟じゃないんだろ?」


藤村 「他の兄弟とはもう5,6年会ってないですね。仲悪いんで」


吉川 「何の情報を突然言ってきたの? 四つ子だってのも関係ないし、一個も状況変わらないけど?」


藤村 「あ、四つ子なのは自慢で。羨ましいでしょ」


吉川 「え? この面と向かって怒られてる状況で自慢を差し込んだの? どういうメンタルしてるの?」


藤村 「そんなに言うならお客様は何つ子ですか?」


吉川 「何つ子でもないよ。何つ子って言い方も初めて聞いたよ。兄弟とか関係ないだろ」


藤村 「0つ子のくせに……。よく四つ子の私にタメ口きけますね」


吉川 「そのマウントなんなんだよっ! こっちは人生で一度も一卵性だか二卵性だかの兄弟がいないことを恥ずかしいと思ったことはないよ」


藤村 「それはお互い様ですよ。私だってグチャグチャの商品を受け取ったことなんてないですもん」


吉川 「全然イーブンじゃねえよ。お前がやったんだろ! まったく無関係の四つ子の話題で煙に巻けると思ったら大間違いだぞ」


藤村 「ではお伺いしますが、何つ子だったら許していただけるんですか?」


吉川 「その条件で許しが発生することはないんだよ。人類の歴史上一度もない。三つ子だから恩赦がありますって聞いたことないだろ」


藤村 「えー? そんなことないですよ? あぁ、兄弟いないから知らないんだ」


吉川 「今まで乗り切ってきたの? 四つ子ってことで?」


藤村 「はい。だいたいイケますね。四つ子ともなれば」


吉川 「甘やかされて育ってるなー!」


藤村 「まぁ、お客様は初めてで知らなかったということで。このグチャグチャの商品も今回だけは特別にお取替えいたしますから」


吉川 「当たり前なんだよ。なんでこっちが無理を言ってそっちが折れた感じになってるの?」


藤村 「上司にバレたら怒られちゃうんで」


吉川 「そこはちゃんと怒られろよ」


藤村 「だって上司は双子なんですよ?」


吉川 「上司もそうなの? じゃ、あれか。ダブルで怒られるってことか? 二人から」


藤村 「いえ、四つ子の半分の双子風情から怒られるのが癪に障って」


吉川 「そのマウント使ってるの、世界でお前だけだぞ!」



暗転

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