軍師

吉川 「ま、まさか!? そこまで読んでたのですか?」


軍師 「人というのは追い詰められた時に逃げ道を与えると簡単にそれを選択するものです」


吉川 「すごい……」


軍師 「あとは自滅するでしょう。こちらは何もする必要はありません」


吉川 「さすが名軍師! だったら戦勝打ち上げですね。近くのお店を予約します」


軍師 「なりません。ここからが大事なのです」


吉川 「え? まだなにか?」


軍師 「予約をしようとしている近くのチェーン店は油が悪く従業員不足のために店内の清掃も疎かでサービスにも問題があります。ここは少し離れますが魚介に信頼の置けるお店があるのでそこにするべきです」


吉川 「あ、はい。さすが名軍師。そんなところまで行き届いてるとは」


軍師 「そして飲み放題のコースではなく単品で注文をすべきです。なぜならアプリをダウンロードしてアンケートに答えると最初に一杯は無料になります。その一杯を考慮し時間内の平均注文数を総合的に考えると、明らかに単品での注文のほうがお得!」


吉川 「そこまで神経質にならなくても」


軍師 「なにを言います。あの孫子も言ってます」


吉川 「孫子が? 飲み放題のことを?」


軍師 「善く兵を用うる者は、道を修めて法を保つ。つまり、フローズンカクテルなどは飲み放題に含まれてないから気をつけろということを言ってます」


吉川 「そんな内容なんですか!? どの辺がフローズンを表してるの?」


軍師 「そして塩分とコレステロールが高くなりがちなので野菜系のオーダーもちゃんとするのです」


吉川 「なんか人間ドックで医者から叱られてる感じが」


軍師 「しかし私も軍を指揮するものとして、兵たちが味の濃いものを求める気持ちはわかります。そんな時にはこの一手です!」


吉川 「なにか策が!?」


軍師 「ズバリ酢の物です」


吉川 「みのもんたみたいなこと言い出したな。酢の物ですね、わかりました。でもメニューはそれぞれ好きなもの頼むから大丈夫ですよ」


軍師 「いいえ、そここそが敵の罠なのです」


吉川 「罠なの? 敵が? 居酒屋のメニューに仕掛けてるの?」


軍師 「そこで我々は、カルタゴの名将ハンニバルに習ってこういう一手を打ちます」


吉川 「ハンニバルに!? そんな戦略が居酒屋で?」


軍師 「そうです。その一手とは、トマトとモッツァレラのカプレーゼです!」


吉川 「イタリアっぽいから? 全然戦略とか関係ないんだ。ハンニバルは別にカプレーゼを食べてないと思うけどね」


軍師 「しかしこのままでは敵の思う壺です」


吉川 「思う壺なの? 敵って何? カロリーやプリン体が敵ってこと?」


軍師 「だがご安心ください。私はすでに手を打っております」


吉川 「それは心強いような、なんなのか、もうよくわからないけど」


軍師 「それがこの前回行った時にもらったクーポン券です」


吉川 「あれ? このクーポン、日付切れてますよ?」


軍師 「なんですと? いかん、総崩れだ。撤退! 撤退~!」



暗転

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