名探偵感

藤村 「どうやら俺の出番のようだな」


吉川 「藤村さん? あなたにわかるのですか?」


藤村 「俺は古今東西のありとあらゆる探偵ものを見てきた。そして身につけた特殊能力がある」


吉川 「もしかして、すごい推理力を手に入れたとか!?」


藤村 「いや、名探偵感を醸し出せる」


吉川 「名探偵感? 聞いたことない言葉だが」


藤村 「どんな難事件を前にしても、名探偵っぽく振る舞うことができるのさ」


吉川 「推理は? 謎は解けないの?」


藤村 「そういうのはわからない。ただ説得力だけはある」


吉川 「一番冤罪が生まれやすい能力だ!」


藤村 「大丈夫。俺に任せておけばなんとなく解決したっぽい空気感にしてやる」


吉川 「解決はしてないんだよね。逆にマズイんじゃない?」


藤村 「こういう状況の中でPTSDになったりすることもある。犯人以外は罪のない人間だ」


吉川 「なるほど。そう言われると説得力だけはある」


藤村 「まずウーバーイーツでカツサンドを頼んでください」


吉川 「ウーバーイーツで? それがなにか?」


藤村 「ちょうど食べたいのです」


吉川 「お前の腹具合は知らねえよ」


藤村 「カツサンドなら手軽に食べられるしお腹にもたまる。この場合もってこいなのです」


吉川 「自分で頼みなさいよ。なんで関係者を全員集めてくださいのノリで頼んでるんだよ」


藤村 「いいですか? この場合重要なのは誰が頼むかではありません。私が自分で頼んだら支払いが私に来ます。ですが私以外の他の誰かなら私はただで食べられる。言ってみればこれは無差別奢られなのです」


吉川 「いいですかじゃないよ。すごい真顔でよくそんなしょうもない講釈を垂れるな。しかも何の説明にもなってないよ。それをわかった上で嫌だと言ってるんだよ」


藤村 「わかりました。この際仕方ありません。ですがこれだけは覚えておいてください。この空腹をしのいだとしても、このままでは第二第三の空腹が必ず訪れるでしょう」


吉川 「勝手に訪れてろよ。別に困らないんだよ、あなたに空腹が何度訪れようと。それは自分で処理しなさいよ」


藤村 「このままでは犯人の思う壺になりますよ」


吉川 「あなたの思う壺になりたくないんだよ。それは脅迫だよ。犯罪ハラスメントだよ」


藤村 「脅迫……? はっ! そういうことか!」


吉川 「なにかわかったのですか?」


藤村 「まずいことになった。手遅れにならなきゃいいが。吉川さん! これから言うものを今すぐ用意してください」


吉川 「はい!」


藤村 「まずウーバーイーツで頼んだカツサンド」


吉川 「だから頼まねえって! 切迫感出すなよ。お前の食べたさのためにアワアワしちゃったじゃないか」


藤村 「やはりですか。初めからそうではないかと睨んでました」


吉川 「なにがですか?」


藤村 「どうしてもあなたはウーバーイーツでカツサンドを頼みたくなかった。それはなぜか。……できなかったんですよ!」


吉川 「え?」


藤村 「そう。ある理由により犯人のスマホもウーバーイーツで注文をすることができないのです。吉川さん、残念です」


吉川 「いや? できると思うけど? ボクのスマホでなら」


藤村 「ふふふ。無理なんですよ、吉川さん。やってみてください」


吉川 「……できますよ? だって、何もしてないもん。カツサンドでしょ? ほら、注文確定」


藤村 「はっはっは。引っかかりましたね? もう遅い、配達員がお店に到達しました。そうです。犯人が誰かはわかりませんが、これでカツサンドが食べられる」


吉川 「お前もう帰れよ」


藤村 「カツはすべて挟まれた!」


吉川 「謎はすべて解かれた感を出すなよ」



暗転

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