鳴き声
吉川 「教授、この鳴き声は?」
教授 「これはアブラゼミですね。ジリジリジリジリという鳴き声です」
吉川 「この高いチーと鳴いてるのはなんですか?」
教授 「これはニイニイゼミですね」
吉川 「ニイニイって感じじゃないですね」
教授 「まぁ昔の人が名付けたからね」
吉川 「あ、ミンミンミンってこれはわかります。ミンミンゼミですよね」
教授 「その通りです。ミンミンと大変喧しい。主に財政面での赤字を解消するために民営化を推し進める思想を主張していると言われてます」
吉川 「言われてるんですか? セミが?」
教授 「まぁあくまで一つの説として」
吉川 「そんな無茶苦茶な説は一蹴すればいいのに。セミに政治を代弁させないでよ。あ、これはわかりやすい。ツクツクホーシ、ツクツクホーシ、と名前のまんまですね」
教授 「これは西川のりおですね」
吉川 「誰? 人?」
教授 「のりおよしおの西川のりおですよ。漫才ブームの」
吉川 「知らないですよ。生まれてないですよその頃。なにそれ」
教授 「ツクツクホーシと鳴いてたらだいたい西川のりおです」
吉川 「全国で? 個人じゃないのその人は。だとしたらメチャクチャ多忙だな。なんのために多忙なのかわからないけど」
教授 「まぁ、あくまで一つの説としてですがね。あ、よく聞いてください、この声」
吉川 「これは、なんの鳴き声ですか?」
教授 「これはソシャゲのガチャで12万出したのに目当てのSSRが引けなかった人の鳴き声です」
吉川 「わかるの? そんなピンポイントで」
教授 「この道何年研究してると思ってるんですか」
吉川 「そのキャリアの中で数年はソシャゲで泣いてる人の声を研究してたってことですか?」
教授 「あくまで一つの説ですがね。あー。この声は特徴的ですね。よく聞いてください」
吉川 「え? なんて言ってる、これ?」
教授 「これは司法試験の5回目の受験を今年にすべきか来年に伸ばそうか考えておかしくなってきた人の鳴き声ですね」
吉川 「その状況の泣き声って決まってるんですか? 全員一律で?」
教授 「決まってます」
吉川 「言い切ったな。司法試験って5回しか受験できないんですよね。今年落ちたらもう今までのが全部とは言わないまでもかなり無駄になってしまう。だからこそ先延ばしにしてしまう恐怖から泣き出してしまうわけですね」
教授 「なかなか儚い鳴き声ですよ。あくまで一つの説ですが」
吉川 「いや、そういう事言っちゃダメでしょ。不謹慎ですよ。説であろうと儚いとか言うなよ。他にも色々な人生はあるし無駄なことなんてないですよ。あ、この鳴き声は?」
教授 「あー、これはわかりやすい。これは七対子狙いだったけど手が進まないから対々和に切り替えたポンですね」
吉川 「わかりやすい鳴き声ですね。急にわかりやすいけど、アカデミックな感じからはえらく遠ざかっちゃったな。その鳴き声の識別をする必要あります?」
教授 「さっきから一々突っかかりますね? あくまで一つの説って言ってるでしょ」
吉川 「いや、でも。流石におかしいから。本当に説としてあるんですか? いい加減なこと言ってるんじゃ」
教授 「私の研究に反論をするならきちんとエビエンスを持ってきてください。ただケチをつけたいだけならこれ以上教えることはありません。立ち去ってください」
吉川 「だっていくらなんでもおかしいもん。わかりましたよ。去りますよ」
教授 「よ、よ、よ、吉川くん……」
吉川 「それはなんの鳴き声ですか?」
教授 「馬謖を斬る時の泣き声です」
暗転
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