暑中お見舞い

吉川 「暑中お見舞い申し上げます」


藤村 「おお、これはこれは。おめでとうございます」


吉川 「いや、別にめでたくないけど」


藤村 「めでたくはないのか」


吉川 「お見舞いだからね」


藤村 「どっちかというと気の毒な感じか」


吉川 「別に気の毒でもない。ただ挨拶みたいなもんだよ」


藤村 「報告か。ただ暑いって言う報告か」


吉川 「ま、まぁ、そうだな」


藤村 「そんなこと言われても困る!」


吉川 「俺のほうこそ、キレられても困る」


藤村 「するってーとなにかい? この暑いのはお前の差し金か?」


吉川 「いや、俺はまったく関知してないと思う」


藤村 「まったく、暑くしやがって。ちょっとは白熊の身にもなってみろ」


吉川 「別に白熊の身にならなくても、現時点で暑いのは俺だっていやだよ」


藤村 「じゃ、涼しくなるようなことをしようぜ」


吉川 「お。いいね? なにする?」


藤村 「心頭滅却しようぜ」


吉川 「いや、そんなことに誘われても」


藤村 「二人で滅却すれば相当涼しいぜ」


吉川 「一人でも二人でも変わらないと思うし……」


藤村 「世界中の人が心頭滅却すれば、温暖化も防げるぜ」


吉川 「物理的に涼しくはならないからなぁ」


藤村 「滅却を馬鹿にするな!」


吉川 「馬鹿にはしてないけど、お前は滅却を過大評価しすぎてる」


藤村 「まぁ、心頭滅却なんて所詮は都市伝説みたいなもんだけどな」


吉川 「そういうものじゃないだろ」


藤村 「やっぱりアレだな。怪談」


吉川 「そうきたか」


藤村 「怖い話で地球温暖化を防ぐ」


吉川 「だから、そんなにグローバルにならなくてもいいよ」


藤村 「お前だーっ!」


吉川 「うわ! ビックリした。なんだ、突然大声出して」


藤村 「怖がらせた」


吉川 「それは怖いというか驚いただけだよ。たしかに突然奇行をするお前はちょっと怖いが」


藤村 「もう暑くて面倒くさいから途中は省いた」


吉川 「途中の方が大切だろ。いや、オチも大切だけど」


藤村 「これは、おれが本当に体験した話なんだけど……」


吉川 「いいよもう。オチ聞いたし」


藤村 「俺の知り合いに吉川と言うやつがいるんだ」


吉川 「俺じゃん」


藤村 「お前だー!」


吉川 「いや、知ってるよ。お前よりもよっぽどご存知ですよ。むしろさっきのオチだけの時のほうがインパクトあったよ。ただの世間話に凋落してしまった」


藤村 「ふぅ。だいぶ涼んできたな」


吉川 「いや、まったく」


藤村 「ところで、暑中お見舞い申し上げます」


吉川 「その話題はもう終わったろ」


藤村 「暑中だけにしょっちゅうお見舞いします」


吉川 「う、心なしか寒い……」


藤村 「心頭を滅却したな?」


吉川 「いや、してないけど」


藤村 「してる! だいぶ滅却してる。それこそが心頭滅却だ!」


吉川 「お前といると心労めっちゃ来る」



暗転

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