信長の

藤村 「くそぅ! 信長のやつ! ズルすぎる」


吉川 「信長の野望?」


藤村 「そう。姉小路でプレイしてるけど、だいたい信長にやられる。信長と手を組むと武田にやられる。八方塞がりだ」


吉川 「もっと勝てそうなところでやればいいのに」


藤村 「だいたい信長は家臣もステータスが異常なんだよ。土地も肥沃だし。贔屓されてる」


吉川 「そりゃされてるだろ、信長の野望なんだから」


藤村 「姉小路プレイが厳しすぎるんだよ。こうなったら打つ手は一つだ」


吉川 「信長でやるか?」


藤村 「タイムスリップをして歴史を改変してやる」


吉川 「ん? 何を言い出すんだ?」


藤村 「言ってなかったかもしれないけど、俺はタイムスリップができる能力者だから安土桃山時代に行ってちょっと信長たちにちょっかい出してくる」


吉川 「タ、タイムスリップできるの?」


藤村 「結構上手いよ」


吉川 「上手いとか下手とかあるんだ。え? そのタイムスリップできる能力でやるのが歴史改変?」


藤村 「この場合はしょうがない」


吉川 「しょうがなくないよ! ゲームでしょ。ゲームのバランスが悪いからって歴史を改変するの?」


藤村 「だったあまりにも信長勢への贔屓がすぎる」


吉川 「ダメだろ。信長殺したりしたら。もっと色々なことが起こりそうだろ。今の時代にまで波及するような」


藤村 「待て待て。タイムスリップ初心者じゃないんだから、そんな改変はしないよ」


吉川 「そうなの? タイムスリップに熟練度の概念があることすら知らなかった。俺は初心者というより未経験者だから何もわからない」


藤村 「いいか? ゲームの武将のステータス。これはだいたい逸話を元にして決まるんだ。戦場での武勲が沢山残ってる武将は統率が高い。謀略を巡らせた武将は知力が高い。そういう伝承を元にして数値が決められてる。だから過去に戻って噂を流すんだよ」


吉川 「噂を流すだけ?」


藤村 「そう。たとえば統率がメチャクチャ高い武将がいたとしても『蜂の群れに襲われて逃げ惑った』という噂を流したらどうだ? そんなやつの統率下げざるをえないだろ?」


吉川 「蜂に襲われたら逃げるだろ。別に強い男でもそのくらいはあるんじゃないか?」


藤村 「だったら『かかれ! と言うと毎回足がつる』とか」


吉川 「まぁそれはダサいな。統率90のやつのエピソードとしてはダサすぎる」


藤村 「だろ? 知力高いやつは『うんこ漏らしてる』とか噂をする」


吉川 「それ家康がやってるけど。漏らした上で知力高いよ」


藤村 「うんこのマイナス効果意外と低いのか。一人称が『オデ』だったっていうのは?」


吉川 「知力95でオデっていうキャラは見たことないな。噂として流しても一人称なら違うってわかっちゃうだろ」


藤村 「だからちょっと後の時代に戻って噂を流すんだよ。人の記憶なんて残らないけど記述は残るんだから」


吉川 「そういうことか。それなら本人にも迷惑がかからないかな」


藤村 「そうそう。あと政治力の高い武将は『毎回お店で注文を間違えられてた』という噂を流す」


吉川 「確かに。そんなやつの政治力が高いわけがないな。ちょっとした同窓会で盛り上がりそうなエピソードではあるけど。あいついつもさぁ、って」


藤村 「信長は覇気が強すぎるから、もっといい加減で怠け者だったと噂を流す」


吉川 「それであれだけの偉業を成し遂げてるのは逆に切れ者感が出ちゃうな」


藤村 「そういうちょいステータス減エピソードを撒き散らしつつ、姉小路の武将にはいい伝承を振りまく」


吉川 「結局滅んでるんだろ?」


藤村 「熊と戦って惜しいところで引き分けた。とか、野鳥がやたらと言うことを聞いた。とか、漬けた梅干しがとにかく美味かった。とか」


吉川 「地味!」


藤村 「派手なのだと嘘っぽくなっちゃうから。滅亡してるわけだし」


吉川 「そのくらいのエピソードが落とし所になるわけか」


藤村 「よし、行ってくる。……ただいま」


吉川 「え? 行ってきたの? なんか消えたりとかしてないけど」


藤村 「出発した時間の直後に戻ってきたから、お前の感覚からすると何も起きてないように思えるかもな」


吉川 「へー。すごいな、さっそく確かめてみよう」


藤村 「あれ? 全然姉小路弱いじゃん」


吉川 「そんなもんだろ。信長の仮病シリーズは毎回そうだよ」



暗転

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