夢の中

吉川 「……ということはこれは夢の中っぽいな」


藤村 「だろ? 理不尽というか不条理というか。もう夢だよ」


吉川 「夢を夢だと認識してる時って意外と夢の可能性を活かせないんだよなぁ」


藤村 「そんなに深刻になることないんじゃない? 夢なんだから」


吉川 「そうだな、どうせ夢だし」


藤村 「やべ、うんこ出そう」


吉川 「やめろよ! こんな閉鎖空間で」


藤村 「でもどうせ夢の中なんだから」


吉川 「お前にとってはお前の夢かもしれないけど、俺にとっては俺の夢なんだよ! 夢の中で他人にうんこされること考えてみろ!」


藤村 「お前はさっき夢の可能性を活かせないことを嘆いてたんじゃなかったのか?」


吉川 「それとこれとは別だよ」


藤村 「一緒だ。ここはあえてチャレンジしてみたい」


吉川 「うんこだろうが! うんこにチャレンジなんていう勇ましい言葉を使うな!」


藤村 「トイレチャレンジだよ」


吉川 「2才児か! もうチャレンジ要素がなくてもこなせるくらい経験重ねてきただろ。ここで初心に帰らなくていいんだよ」


藤村 「そこに山があれば登る。便意があれば出す、俺はそう言う男だよ」


吉川 「格好良さげに言ってるけど理性がないだけだから。山を見たらすぐ登りに行っちゃうのも含めて。人間には理性があるんだよ。すべきでない時にはしないと判断する」


藤村 「ものすごい勢いで反対するけど、逆風が強ければ強いほど俺は燃え上がるのさ」


吉川 「ロミオとジュリエットの恋心みたいに言ってるけど、お前に燃え上がってるの便意だからな。天と地だよ。あれか? 北風と太陽みたいな話なのか? だったら俺は太陽のように暖かく見守るべきなのか?」


藤村 「暖かい……。冷たい便座が唯一の弱点であった俺に、なんて暖かい陽射しだ」


吉川 「逆効果じゃねーか! 何が何でもするつもりか? あのな、わかってるか? 夢の中で便意を解消したとしても、現実で解消されない限り便意は続くんだよ。思い当たる節があるだろ?」


藤村 「確かに今まではそうだった。でも今回は違うかもしれない。その僅かな可能性に賭けてみるさ」


吉川 「賭けるほどのことじゃねーんだよ。勝っても負けても何も得られない賭けだろ。バカの博打なんだよ」


藤村 「ひょっとしたらスッキリするかもしれない」


吉川 「それはそれで問題だろ。きっと起きた時に大後悔するぞ。スッキリさせちゃってるんだから」


藤村 「わかった。じゃあこの便意を俺たち二人でシェアして収めようぜ」


吉川 「それもやだな。なんだよ便意をシェアって。どういう肉体の状態になればそうなるんだよ。エスパー魔美でおしっこだけテレポートさせる話があったけどそれか?」


藤村 「俺の高畑さんになってくれ!」


吉川 「ならないだろ。そこで『よし! まかせたまえ魔美くん!』とは言えないよ。どれほど献身的な高畑さんで便意は無理よ」


藤村 「夢の中なんだからうんこじゃないものが出てくるという風に解釈すればいいだろ。素敵な星屑のようなものが」


吉川 「う~ん……。いや、無理だろ。想像してみたけど尻から出てくる時点でどんなに光り輝いてようと素敵に思えないよ」


藤村 「お前の好きなものってなんだっけ? あれか、赤福好きだったよな?」


吉川 「おい、やめろ! お前はこの世で最も邪悪なことをしようとしてるぞ。すぐさまその馬鹿な考えを改めろ」


藤村 「結局のところ夢の中で出てくるのは概念にすぎないんだから、気にしなきゃいいんだよ。概念がブリブリブリ~って」


吉川 「ブリブリ言いながら出てくる概念はもう概念を超えた影響を精神に及ぼすんだよ」


藤村 「どうしてもダメなの? もうここですることしか考えられない」


吉川 「ここじゃなくていいだろ。せめてどこかに行けよ」


藤村 「俺の夢に出てきてるくせにすごい横柄な態度だな」


吉川 「俺は俺だからな。お前はなんかおかしいぞ。そんなやつじゃなかっただろ。まるで妄執に取り憑かれてるみたいだ。なんでそこまでここでうんこするのに拘るんだよ」


藤村 「自分でもわからない。もう止められないんだ」


吉川 「わかった。俺が目を覚まさせてやる」



暗転


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