未踏

吉川 「藤村さん、いかがでしょうか。これからまさに人類史上初、火星に降り立つわけですが」


藤村 「なんとも言えない気持ちですね」


吉川 「今、世界中の人々が藤村さんの一歩に注目しております。なにかメッセージなどありますでしょうか?」


藤村 「では、先日私を炎上させた人たちに。ざまぁみろ! クソみたいな言葉でワーワー喚き散らすだけで何一つ成し遂げないクズどもめ。こっちは人類史上初の偉業だぞ!」


吉川 「藤村さん? 世界中の方があなたの一挙手一投足に注目しております。もう少し柔らかい言葉でお願いします」


藤村 「見てるか? 柔らかいクソども!」


吉川 「そういう意味じゃない! 粘度の話を注意したわけじゃないから。皆さん見てらっしゃるので」


藤村 「だってあいつらがよぉ! 人の揚げ足を取って好き勝手言いやがってよ」


吉川 「存じてます。数日前の発言に関してはこちらも把握しておりますが、今回のこの偉業に対してはあえて触れないようにとこちらも配慮しておりました」


藤村 「俺は間違ったこと言ってないよ? だいたいバカに発言権を与える方がおかしいんだよ」


吉川 「あの、藤村さん。その件に関してはまた別の機会に伺いますので。今回は人類未踏の火星に対してのコメントを頂きたいと思います」


藤村 「あっそ。別にいいけど。……ゴホン。私もこの一歩目は特別な思いを持っています。しかし、考えてみれば誰にとっても一歩踏み出すというのは大きな意味を持つことなのです。私が宇宙飛行士を目指した一歩目を注目している人は誰もいませんでした。しかしその一歩があったからこそ、私は今ここに立っています。皆さんも勇気を持って未来に対する一歩目を踏み出してください」


吉川 「ありがとうございます。まさに人類史上初、火星に降り立つにふさわしい素晴らしいメッセージでした」


藤村 「あと今も中傷コメント書き込んでる奴ら! この世のゴミクズみたいな暇人共! お前らは一歩も踏み出す意味ないからな! どうせお前らは崖っぷちだ。踏み出せば真っ逆さま。せいぜい怯えて生きろ」


吉川 「藤村さん。台無しになってしまった。控えて! そういう発言がよくない」


藤村 「だってあいつらは懲りないから! 今もクソみたいな、いや、やわらかいクソみたいなコメント書きまくってんだぞ。こっちが宇宙だから手出しできないとたかを括って」


吉川 「藤村さん。お気持ちはわかりますが、いま大切な時ですから。そういった方々のことは気になさらずに」


藤村 「あんたは気にしないでいられるのか? ずーっと悪口言われてるんだぞ? もうエゴサしたら最悪だから。普通の人間なら気が狂うよ」


吉川 「そうかも知れませんが、そんな小さいことを気にしなくても。あなたは立派な人物じゃないですか。多くの方から尊敬もされてますよ」


藤村 「100万人から尊敬されててもアンチ一人で嫌な気持ちになるんだよ!」


吉川 「そういうものなのですね。でも今は皆さんが応援してます。さぁ、一歩目お願いします」


藤村 「ったく、アンチどもはよぉ! おめーらよく見てろよ。お前らが1000年努力してもたどり着けない成功者の姿を。羨ましがるといい。この人類にとって大きな一歩を!」


吉川 「非常に器の小さな一歩ですね……」



暗転

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