爆弾魔

吉川 「おめでとう。キミは選ばれた世界一不幸な人物だ」


藤村 「もしもし? どなたですか?」


吉川 「それは知らなくていい。私もキミを知らない。キミはたまたまその拾ったケータイに出ただけだね?」


藤村 「はい。持ち主ですか?」


吉川 「そうだ。持ち主だ。だが返す必要はない」


藤村 「じゃメルカリで売ってもいいんですね」


吉川 「ダメだよ。待て。話を聞け。本日13時に某所で爆弾が爆発する。仕掛けたのは私だ」


藤村 「ええっ!?」


吉川 「これからキミにヒントをあげよう。警察に通報するのは自由だ。しかしこのケータイに出ていいのはキミだけだ」


藤村 「あ、すみません。ちょっとそういうの面倒くさいんでパスします」


吉川 「パスはできないんだよ! このケータイを拾ったのが運の尽きだ」


藤村 「無理っすね。面倒なんで」


吉川 「面倒とかじゃないだろ。爆弾が爆発したら人が死ぬんだぞ」


藤村 「そうですね」


吉川 「助けられるのはお前だけなんだぞ?」


藤村 「いや? あなたも助けられるんじゃないですか?」


吉川 「そうだけど、俺が助けちゃったら、何なのか意味わからないだろ。ただ一人で忙しくしてる人じゃん」


藤村 「でもこっちはやりたくないんで」


吉川 「わかったよ! じゃあそのケータイをその辺に捨てろ。他のやつが拾うのを待つから」


藤村 「え? これはメルカリで売りますけど?」


吉川 「なんでそういうことするの? 普通拾ったケータイ勝手に売らないでしょ」


藤村 「意外といい金になるんですよ」


吉川 「倫理観が最低のやつに拾われたな。わかってる? 爆弾。人の命がかかってる」


藤村 「ドキドキしますね」


吉川 「お前がドキドキするなよ! この爆弾でワクワクドキドキしていいのは世界中で俺だけなんだよ!」


藤村 「すみません、急いでるのでもう切りますね」


吉川 「どういう神経してるの? じゃ、わかった。警察に連絡しろ」


藤村 「やですよ、面倒くさい」


吉川 「いいだろそのくらい! 爆弾だよ? 結構すごめのやつ」


藤村 「てかなんでそんな上からなんですか? こっちは曲がりなりにも拾ってあげたんですよ?」


吉川 「いやだって。爆弾魔が下手に出るのもおかしくない?」


藤村 「他にケータイ捨ててないんですか?」


吉川 「……ない」


藤村 「あなたの杜撰な計画のせいでみんなが迷惑してるんですよ。爆弾はともかく、拾った人間があんたみたいなクズの言う通り動くと想定してるのが愚かすぎる」


吉川 「すげぇ言ってくるじゃん。自分のクズさ棚に上げてない?」


藤村 「俺は誰にも迷惑かけてないもん。むしろメルカリで買った人は感謝するんじゃね?」


吉川 「迷惑だろ。貴重な爆弾の情報を無駄にして!」


藤村 「それはあんたのかけた迷惑だろ。責任転嫁するなよ。爆弾に関してはあらゆる責任はあんた一人だけのものだ」


吉川 「そうだけどさ! でも普通に考えて爆弾が爆発するのを事前に知ったら、回避しようと思わないか?」


藤村 「そればっかりは面倒くさすぎる」


吉川 「なんでだよ! いいだろ、警察に連絡するくらい。そこからのゲーム性が一番盛り上がるわけだし、俺の爆弾魔としての思想とかも込められててドラマチックになる部分なんだよ!」


藤村 「わかった。警察に連絡するとしていくら出す?」


吉川 「それを俺に言う!? むしろ逆でしょ? 俺が金銭を要求するならわかるよ? お前はただケータイ拾った哀れな第三者という立場なんだよ」


藤村 「で? 御託はいいんだよ。いくら?」


吉川 「正義感を母の胎内に置き去りにして生まれてきたの? もういいよ。お前に付き合うのなんか怖いもん」


藤村 「交渉決裂か。残念だな。罪もない人たちが大勢死ぬことになるな」


吉川 「わかったよ。やめるよ! 爆弾止めます!」


藤村 「早まるな! 落ち着いて考え直せ!」


吉川 「地獄の使者かよ」



暗転

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