共犯

吉川 「なるほど。なぜあなたがこのさして評判がいいとはいえない探偵である私に依頼をしてきたのかはわかりました。ただひとつ、気になることがあります」


藤村 「一体何でしょう? 私は知っていることをすべて話しました」


吉川 「そうでしょうね。あなたは知っていることをすべて話してしまった。犯人しか知り得ない情報すらも。なぜあなたは、被害者が殺された時の状況、モニターに写っていた番組や開かれていたファイルのことまでご存知なのでしょうか」


藤村 「あちゃ~」


吉川 「あちゃ~って」


藤村 「バレてる系ですか?」


吉川 「バレてる系ですね」


藤村 「確かにあなたの推理は正しい」


吉川 「正しいってことはあなたが犯人なんですね?」


藤村 「そうですけど、ただ一つ見落としがあります」


吉川 「なんでしょうか。聞かせてもらいましょう」


藤村 「犯人しか知り得ない情報と言うのは間違いです。なぜならもうあなたも知っている」


吉川 「え? それはあなたが言ったから」


藤村 「犯人しか知り得ないと言ったのはあなたですよ! その情報をあなたも知っている! これはもう共犯と言っていい」


吉川 「すごい開き直り方したな」


藤村 「さぁ一緒にどう切り抜けるか考えましょう」


吉川 「待ってよ。私には動機がない」


藤村 「そんなことはありません。被害者の写真をもう一度見てください。名前は違ってますが」


吉川 「えー? 誰? 知ってる人?」


藤村 「あなたが5年前、カラオケボックスでバイトをしていた時」


吉川 「あー! バイトリーダー! あいつだ!」


藤村 「あいつですよ。嫌なやつだったんでしょ?」


吉川 「嫌なやつだった。あいつ死んだのかぁ」


藤村 「できれば殺したいくらいだったでしょ?」


吉川 「そんなことはしないけども。しないけども、確かに気持ちはわかる」


藤村 「殺しちゃった」


吉川 「ダメだよ。しょうがないかもしれないけど、ダメだよ。あとだからと言って5年も前のこととなると動機としては薄いわけだし」


藤村 「そんなのは探偵としての知名度を上げるために事件をでっち上げたとかなんでも作れるわけです。世間なんて面白おかしく脚色したものが大好物なんだから」


吉川 「いや、私そもそも全然関係ないんですよ? 部外者」


藤村 「もう身内も同然。私はマブダチだと思ってます」


吉川 「勝手に何言ってるの? やめてよ。巻き込まないでよ」


藤村 「二人で力を合わせなければこの窮地は逃れられないよ!」


吉川 「あなたの窮地だから。私はそこにいないの」


藤村 「いるよ。もし捕まったら共犯だって言うから。幸いあなたの事件当時のアリバイはないわけだし」


吉川 「なんで調べてるんだよ。どういう人間なんだよ。人としておかしいだろ」


藤村 「そんなこと言いだしたら、殺人の時点で十分に人としておかしいよ。もうその段階はすでに楽々と飛び越えてるんだよ」


吉川 「そうだとしても次々と飛び越えようとするなよ。ハードルじゃないんだから。こっちの迷惑を考えろ」


藤村 「お前が考えるのは自分の迷惑じゃなくて、これから誰に迷惑を押し付けるかだよ!」


吉川 「最悪だな。正義という言葉、生まれてから一度も聞いたことない?」


藤村 「俺たち二人なら何だってできるさ。世界をひっくり返すことすらな!」


吉川 「悪の道に誘う常套句じゃん。スコセッシの映画かよ」


藤村 「俺とお前とは一蓮托生。もう義兄弟みたいなもんだよ。こうなると思ってたから義兄弟とプリントしたおそろのTシャツも作ってきた」


吉川 「悪事云々を一旦置いといたとしても、そんなダサいTシャツ着ないよ!」


藤村 「胸に英語でGI-KYODAIって書いてある」


吉川 「英語ですらない。ローマ字。何か勘違いしてないか? お前を告発することもできる。俺には正義があるんだよ!」


藤村 「そっちこそ勘違いしてないか? もうひとり殺すも二人殺すも一緒なんだよ。俺には殺意があるんだよ!」


吉川 「……着ます。Tシャツ」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る