カルチャー

藤村 「こんにちは。本日の週末カルチャー講座『三国志に学ぶ30代からの管理職メソッド』ですが、大変申し訳無いのですが資料の作成が間に合わず一部内容を変更することになります。ご了承下さい」


吉川 「内容が変わってしまうのですか?」


藤村 「いえ、一部だけですね。せっかくお集まり頂いた方には申し訳ありませんが、なにぶん資料の方が……」


吉川 「ああ、そうなんですか」


藤村 「ではお手元にお配りした冊子をお開きください。1ページ目は目次ですので2ページ目の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッドにおける死とゾンビ化の法則』から参ります」


吉川 「待って待って待って! 三国志は?」


藤村 「一部内容を変更しております。だいたい一緒なんで」


吉川 「いや、一部じゃないでしょ。ゾンビの話になってるもん」


藤村 「ま、三国志というのも広い意味で言えばゾンビの話みたいなもので」


吉川 「それは違うだろ。どこまで広げてもゾンビの話じゃないよ」


藤村 「そうですね、初めは誰もがそう感じられると思います。ですが話を全部聞いていただければご納得いただけるかと」


吉川 「そうなんですか?」


藤村 「えー、ジョージ・A・ロメロのゾンビシリーズの起点となるナイト・オブ・ザ・リビングデッドですが、この映画の中で描かれるゾンビというのは死体なわけです。感染者ではありません。そしてゾンビに噛まれたからゾンビになるわけでもないのです。この世界に普通の死体は存在しません。つまり人間は死ねば誰もがゾンビになる。ゾンビに噛まれると間もなく死ぬだけです。つまりこの世界のすべての人間はもうすでにゾンビ予備軍になっており、死ななければ人間、死ねばゾンビという状況なのです。ということで第一部を終了し、第二部はマイケル・ジャクソンのスリラーをみんなで踊りたいと思います」


吉川 「なんでだよ! 変更するにしてももうちょっと寄せろよ。誰もスリラー踊ろうと思ってここに来てないよ」


藤村 「そうですね。しかしゾンビも誰もゾンビになりたいと望んでなっているわけではないのです」


吉川 「関係ないだろ。なんでお互いに痛み分けで納得しましょうみたいな感じになってるんだよ。そもそもゾンビの話を聞きに来てないんだよ!」


藤村 「そうですよね。ただ今回はゾン国志に学ぶという形ではありますが……」


吉川 「三国志だろ! なにちょっとゾンビに寄せてるんだよ」


藤村 「すみません、本場の発音で言ってしまいました」


吉川 「どこの本場だよ。中国でもゾン国志とは言わないよ!」


藤村 「では今から三国志の話に戻しますけど、いいですか?」


吉川 「戻せるなら戻してよ。そっちを聞きに来たんだから」


藤村 「ただ全く面白くはないですよ? 三国志のくだりが一番退屈だと前回のアンケートにも書かれてたので」


吉川 「なんだよそれ。それを反映してゾンビの話にしてきたの?」


藤村 「はい。どうせだったら盛り上がったほうがいいかと思いまして」


吉川 「だけどそもそも三国志の話をするということで集めてるんだから、そこを面白くする努力をして欲しかったよ」


藤村 「それはまったく思い浮かびませんでした」


吉川 「まったく? なんでよりによってゾンビにしようってアイデアが思い浮かぶんだよ。どうかしてるだろ」


藤村 「でも三国志って意味わからなくないですか? 割と楽しいのは三国になる前の段階だし、三国になってからはゴチャゴチャ小競り合いしてるだけで、結局最後は三国でもない所が統一しちゃうし」


吉川 「そんな言い方なくない? 三国志を楽しみにこの講座に来た人に言う言葉か? ちょっとデリカシーがなさすぎる」


藤村 「そんな悲しみをスリラーを踊ることによって解消しようというのが本講座の趣旨でして」


吉川 「趣旨は違うだろ! 趣旨は三国志なんだよ。その軸足をブラさないでくれよ」


藤村 「スリラーのスリは三国志のスリーですから」


吉川 「そんな思いでマイケル・ジャクソンは踊ってねぇよ!」


藤村 「はい、ワンツー、ワンツー。リズムに乗って~」


吉川 「くそぅ、ちょっと楽しくなってきた……」


藤村 「はい。心を開放して。歌詞に思いを馳せて~」


吉川 「歌詞わかんないよ。英語だから」


藤村 「冊子の14ページに日本語訳がのってます。それを参考にして~」


吉川 「蒼天已に死す、黄天當に立つべし。黄巾党の歌詞じゃねぇか!」


藤村 「だいたい一緒なんで」


吉川 「絶対一緒じゃねぇだろ!」



暗転

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