ウェルカム

藤村 「いらっしゃいませ。ご予約のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


吉川 「20時半からの吉川ですけど」


藤村 「お待ちしておりました。どうぞこちらへ。こちらウェルカム・アルコールでございます」


吉川 「あ、はい。消毒のやつですね。これをウェルカム要素に含めるの初めてみました」


藤村 「どうぞこちらへ。こちらウェルカム・チェアでございます。お座りください」


吉川 「そんなチェア初めて聞いたけど? ここは予約の席とは違うの?」


藤村 「こちらのテーブルでお食事の方をしていただきます」


吉川 「ややこしいな。言い方が」


藤村 「お待たせしました。こちらウェルカム・ウォーターでございます」


吉川 「水もウェルカムに加わってるんだ。なにか特別な水なの?」


藤村 「ウェルカムな水でございます」


吉川 「なに、ウェルカムって。成分なの?」


藤村 「ミネルカム・ウォーターでございます」


吉川 「ミネラル・ウォーターとは違うの? なに、そのカムは。気持ち悪い」


藤村 「こちらウェルカム・メニューでございます」


吉川 「普通のメニューだよね。どの店でも出てくるけどね」


藤村 「ユア・ウェルカム」


吉川 「言ってないよ? それサンキューって言われた時の返しでしょ? まだ言ってないんだよサンキュー」


藤村 「ノット・ウェルカムでございましたか」


吉川 「いや、ウェルカムするのは別にいいけど。じゃ、このコースでお願いします」


藤村 「かしこまルカム」


吉川 「それやめたほうがいいよ。バカにされてるみたいだから」


藤村 「お客様、大変申し訳ございません。こちらのコースなのですが……」


吉川 「どうかしたの?」


藤村 「ただいまウェルカムの方が足りなくなりまして、十分な量をご用意することができなくなりまして」


吉川 「材料なの? ウェルカムは。なんか肉とか野菜とかの名前?」


藤村 「いえ、気持ちです」


吉川 「気持ちだったら用意しろよ。なんで足りなくなってるんだよ」


藤村 「調子に乗って前半でばら撒きすぎてしまって」


吉川 「完全にお前のせいじゃねーか。全体を考えて調節しろよ。そもそも枯渇するものなのか、ウェルカムの気持ちは」


藤村 「すみません。まったく歓迎する気持ちがなくなってしまいまして。なんだったらもう帰って欲しいくらいで」


吉川 「どういうことだよ。まだ料理運ばれてきてもないのに。ウェルカムがなくなると料理はなんか変わるの?」


藤村 「味は変わりませんが、見た目の方は恐らくグチャグチャになっちゃうかと思われます」


吉川 「グチャグチャにしないでよ。ちゃんとできるだろ、そのくらい」


藤村 「この客ならこの程度でいいだろって気持ちが出てしまうので」


吉川 「出すなよ。最低だな」


藤村 「もうウェルカムの気持ちが尽きてるので、運んでくる途中で違うテーブルに皿をおいてしまうかもしれません」


吉川 「しれませんじゃないよ。ちゃんとしろよ、仕事だろ?」


藤村 「いくら仕事と言われても、こればっかりは」


吉川 「そんなに? あなたこの仕事向いてないよ。本当に」


藤村 「もしよろしければ、別のメニューをご提供するという形にしてもらえれば」


吉川 「それはウェルカムなくても大丈夫な料理なの?」


藤村 「はい。はじめから一切ウェルカムの気持ちの入ってないメニューですので」


吉川 「それもどうなんだよ。多少は入れておけよ。じゃあそれでいいよ」


藤村 「おまたせしました。こちらリンゴのウィリアム・テル風でございます」


吉川 「ウィリアム・テル! そう来たか。ウェルカムの代わりに。まぁ、思ったよりは悪くないからいいか」


藤村 「それだけではございません。こちら、見た目ではわかりませんが食べていただきますと、中にウェルシュ菌が入っておりまして」


吉川 「営業停止になっちまえ!」



暗転

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