スラッシャー

吉川 「一体どうなってるんだ! あんな殺人鬼が出るなんて!」


藤村 「落ち着け。大丈夫だ」


吉川 「これが落ち着いていられるかよ! この街はどうなっちまったんだ! すぐに逃げないと」


藤村 「だから大丈夫なんだって。俺はこう見えてスラッシャー映画を1億本見てる」


吉川 「スラ? なに?」


藤村 「スラッシャー映画。殺人鬼がバンバン人を殺して気分爽快になる映画だ」


吉川 「ならないだろ。そんな映画を1億本も見てるのか? ここにきてお前の精神が心配になってきた」


藤村 「なに、世にあるスラッシャー映画の100分の1も見れてないヒヨッコさ」


吉川 「100億本も作られてるの? 世の中って狂った人しかおらんの?」


藤村 「そのスラッシャー映画の法則によれば、処女と童貞のうだつの上がらないやつは最後まで生き残るんだ」


吉川 「あ! それはなんか聞いたことある」


藤村 「そう。スラッシャー映画とはムカつくやつがバカみたいな死に方をするのを楽しむ映画。しかし物語を最後まで牽引するキャラが必要、それが処女と童貞だ」


吉川 「あぁ、うん」


藤村 「だから童貞ならば最後まで生き残れる!」


吉川 「へぇ……」


藤村 「俺はバリバリの童貞だ! だから命の危険はない。お前は?」


吉川 「は? いいじゃん、別に。そんなこと」


藤村 「おいおい。待てよ。まさかお前、知ってたのか?」


吉川 「なにが?」


藤村 「童貞が生き残ると聞いて、俺より童貞感出そうとしてるだろ! なんだよ、その見事な童貞ムーブは」


吉川 「何言ってんだよ。関係ねーじゃん」


藤村 「うわ、完璧に童貞だわ。ひょっとして俺を出し抜いて一人だけ助かろうと考えてないか? そうじゃなければそこまでの童貞力はでないだろ!」


吉川 「はぁ? ちげぇけど? 何言ってんの?」


藤村 「俺も負けずにお前以上の童貞感を出さなければ。しかし、俺は実際に童貞であることに胡座をかいて童貞感の研究を怠ってしまった。お前の研ぎ澄まされた童貞感に勝てるか……」


吉川 「研ぎ澄ましてねーよ!」


藤村 「おいおい! お前! なんだよ、その爪!」


吉川 「は? だってほら。爪とか。一応きれいにしてるし」


藤村 「童貞感! ホットドックプレスで聞きかじった性知識を忠実に実行!」


吉川 「お前、その伸びてるの良くないって言うぞ」


藤村 「隙がねーな。女の子と食事に行くならどんな店に行く?」


吉川 「あー、そういうのね。意外とラーメン屋とかがいいかもな」


藤村 「童貞感! なんで入門前にそんな上級者っぽい振る舞いをするんだよ。普通にパンケーキ食べに行っておけよ!」


吉川 「そ、そうなの?」


藤村 「例えば女の子にラインを聞く時どうやるんだよ?」


吉川 「普通に。ねぇねぇ、このスタンプ面白くね? みたいに話しかけて」


藤村 「それは正解な気がするな。俺も使わせてもらおう」


吉川 「お前も別にジャッジできる立場じゃねーじゃねえか」


藤村 「じゃさ、好きな女の子がいて、ネットを駆使したり会社からの帰り道をつけて彼女の家を特定しました。で、ウーバーイーツと偽ってオートロックの中に入ったんだけど、その後どうする?」


吉川 「それは童貞関係なくない? ストーカーだぞ。性犯罪者の方だよ」


藤村 「あ、でも童貞もするじゃない?」


吉川 「一緒にするなよ! 魚の中には毒があるやつもいるけど、魚は全部毒を持ってるわけじゃねぇよ」


藤村 「じゃ、オートロックの中には入れませんでした。そうしたらどうする?」


吉川 「それはウーバーイーツと偽って入れてもらって」


藤村 「やっぱりそうだろ?」


吉川 「やっぱりじゃないよ! そんな状況にならないよ、普通の童貞は」


藤村 「なぁ、俺たち友達だよな? 親友だよな? お前一人だけ童貞として抜け駆けしないよな?」


吉川 「普通、抜け駆けしたいものだろ。なんなんだよ、この状況」


藤村 「約束してくれ。童貞を捨てる時は、俺も一緒だと!」


吉川 「どういう状況だよ! なんで初っ端が3Pなんだよ。もっと綺麗な思い出にしたいよ!」


藤村 「童貞感! 負けたー!」


吉川 「うるせぇよ!」



暗転

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