ノーベル

吉川 「教授、いい加減休んでください。そんな調子じゃ研究以前に身体を壊します」


教授 「構わん! この研究が実れば、ノーベル賞も夢じゃない」


吉川 「だからと言って一日も休まずに研究を続けてるじゃないですか。おかしくなりますよ!」


教授 「それもこれもノーベル賞のためだ」


吉川 「そんなにノーベル賞が大事ですか!」


教授 「当たり前だろ! 研究者として当然目指す場所だ。そのために一日も休みなく研究を続けてきた。これで成果が出れば、ノーベル皆勤賞も夢じゃない!」


吉川 「ノーベル皆勤賞?」


教授 「そうだ。そのための研究。ぶっちゃけほぼ遊んでるだけの日も多かったが、それでもノーベル皆勤賞を目指して毎日ここには来ていた!」


吉川 「いや、ないっすよ」


教授 「え?」


吉川 「ないです。ノーベル皆勤賞は。聞いたことないですもん」


教授 「あれか? 精勤賞のパターンか?」


吉川 「パターンじゃなくて。そもそもそういうのないと思いますよ」


教授 「ないの~? 嘘でしょ? もう貰える気でいたから研究なんて全然進んでないよ?」


吉川 「してなかったのかよ、研究。ただ来てただけ?」


教授 「ただ来て、それっぽい振りをしていただけだ」


吉川 「そんなんでノーベル賞もらえないですよ」


教授 「でもすごいそれっぽい感じじゃなかった? 研究に行き詰まって髪をかき乱したり」


吉川 「別にあれ、行き詰まってなかったんですか?」


教授 「うん。ほら、人の見てるところじゃないと意味ないから、吉川くんがいる時に結構頑張ってアピールして」


吉川 「すごい険悪な空気作ってたじゃないですか」


教授 「あれ一度やっちゃうとしばらく楽しく雑談できなくなっちゃうから諸刃の剣だったよ」


吉川 「やらなきゃいいのに。はた迷惑な」


教授 「やらなきゃそれっぽくならないだろ」


吉川 「っぽさじゃなくて研究を本当にすればいいじゃないですか」


教授 「だってそれは面倒くさいじゃん。研究ってさ。思った結果が出るわけでもないしさ。よくみんなやるよね」


吉川 「あなたがそれ言っちゃダメでしょ」


教授 「まさかノーベル皆勤賞がないとは。しかし私とて研究者の端くれ。ここで諦めるわけにはいかない」


吉川 「やっとやる気になりましたか」


教授 「必ず貰ってみせる。ノーベル残念賞を!」


吉川 「いや、ないって。なんすか、残念賞って。くじ引きではずれの人がもらうやつじゃないですか」


教授 「ないの? ノーベルポケットティッシュとかもらえないの?」


吉川 「欲しいですか? ノーベルポケットティッシュ。そんなどうでもいい栄誉」


教授 「じゃあノーベルは残念な人のことどう思ってるの?」


吉川 「どうも思ってないですよ。ノーベルは。もう死んじゃってるし」


教授 「ないってパターン想定してなかったなぁ」


吉川 「見積もり甘すぎるな」


教授 「あれは一応あるんだよね? ノーベルブービー賞」


吉川 「聞いたことあります? 今年のノーベルブービー賞は! って」


教授 「誰かが貰ってるんじゃないの? ビリから二番目の研究者が」


吉川 「そもそもビリってなんですか。そんな順位ないでしょ研究者に」


教授 「ノーベル新人賞は初年度に取れなかったから諦めたんだけど」


吉川 「あいつフレッシュだなって研究者に贈る賞もないよ。功労賞もないから。そもそも受賞するのほぼ高齢者だよ」


教授 「ということは、もう望みを賭けられるのは、ノーベル審査員特別賞しかないのか」


吉川 「それもないよ。誰だよ審査員」


教授 「上沼恵美子さんは違うの? ノーベル上沼恵美子賞もないの?」


吉川 「完全にお笑いの賞じゃん。ノーベルが発信する必要ないだろ。研究者として上沼恵美子賞を目指す人、道に迷いすぎだよ」


教授 「そうか。わかった。ではノーベル賞は諦める。しかし研究は諦めない!」


吉川 「その意気です」


教授 「まずは仮説を立て直さなければ。今後の課題はどうやってベストドレッサー賞を取るのか、だ」


吉川 「もう研究やめちまえ!」



暗転

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