藤村 「吉川さん、本日はどうしましたか?」


吉川 「どうも虫歯みたいで」


藤村 「え? 本当に虫歯ですか?」


吉川 「あの、痛いんで」


藤村 「吉川さん、歯が痛くなる原因というのは色々あるんです。実はその中で虫歯というのは極めて珍しいんですよ」


吉川 「そうなんですか? 虫歯くらいしか知りませんでした」


藤村 「まず歯呪い。これは呪いをかけられてる場合ですね。歯痛の主に92%が歯呪いです」


吉川 「92%も!? 呪いを?」


藤村 「はい。呪いです。恨みを買ったりすると歯じゅ、歯じゅつす、歯すじゅす。いわゆる歯の呪術師に頼んで呪いをかけてもらいます」


吉川 「全然言えてなかったですね。歯呪術師」


藤村 「それ言うのと死ぬんですよ」


吉川 「嘘!?」


藤村 「嘘です。悔しいから嘘をつきました」


吉川 「なにそれ。悔しいからって嘘をつかないでよ」


藤村 「他にも歯毒。これは毒ですね。グレート・カブキとかグレート・ムタが吹く緑のやつです。あれを口に含んでいたために歯痛になる場合があります」


吉川 「悪役マスクマンじゃないですから歯毒じゃないと思います」


藤村 「でもいつ転向するかわからないじゃないですか。武藤だって初めから悪役マスクマンを目指してたわけじゃないですよ」


吉川 「何の話? そもそもプロレスラーじゃないから、毒霧を含んだりしませんよ」


藤村 「そうですか。ま、今までの話は全部嘘ですけど、とりあえず見てみますね」


吉川 「待ってよ。嘘なの? 歯呪術師は?」


藤村 「ここ現代の日本ですよ?」


吉川 「知ってるよ! すごい真面目に言うから、私が知らないだけでそういうのがあるのかと思っちゃったのに」


藤村 「じゃ大きく口を開いてください。上のお口ですよー」


吉川 「なんですか、上のお口って。含みのある言い方しないでくださいよ」


藤村 「あー、これはあれですね。歯霊ですね」


吉川 「歯霊?」


藤村 「歯のオバケです。オバケがついてます。落ち武者が」


吉川 「いやいや、つくわけないでしょ。歯に」


藤村 「え? つきますけど? ではなんなんですか、この落ち武者は」


吉川 「本当にいるの? 落ち武者が歯に?」


藤村 「はい。ビッシリと」


吉川 「気持ち悪! なにそれ! ちっちゃいの? ちっちゃい落ち武者がビッシリいるの?」


藤村 「どうだろ、今まで見てきた歯霊に比べて小さいかと言われると、それほどでもないと思います。標準的な歯霊の大きさの落ち武者がビッシリと」


吉川 「標準とか言われても、概念に初めて触れたからわからないよ。本当なんだ。歯にビッシリつくサイズなの?」


藤村 「なにがですか?」


吉川 「だから落ち武者が!」


藤村 「便宜的に落ち武者と言いましたが、ひょっとすると落ちてない武者かもしれません。ただ死んだ武者」


吉川 「どっちでもいいよ。詳しく知りたいポイントがズレてるんだよ! こっちは歯オバケ自体知らなかったんだから。初心者の気持ちに寄り添った解説をしてくれよ」


藤村 「歯霊の場合はですね、歯エクソシストが除霊しなければいけません」


吉川 「え? ここじゃできないの?」


藤村 「うちもやってますよ。溶接の資格がありますから」


吉川 「溶接の資格でできるの? どういうこと?」


藤村 「車の免許取れば原付きも乗れるみたいなもんです」


吉川 「歯エクソシストは溶接の下位概念なの? 何がどう含まれてるの?」


藤村 「どうします? 手っ取り早く溶接でケリをつけます?」


吉川 「つけないよ。つけるわけないじゃん。人の歯に対して、なに言ってんの? そんなことして平気なの?」


藤村 「まぁそうですよね。死んじゃいますしね」


吉川 「死んじゃうのかよ。もうどれが本当でどれが嘘だかわからない状況で冗談を言わないでくれよ。こっちは困ってるのにさ」


藤村 「じゃ、このホースを咥えてください。ここから歯エクソシストがビッシリ出てきますから」


吉川 「あ、あなたが歯エクソシストじゃないの? 歯エクソシストはそういう小さいビックリドッキリメカみたいなの?」


藤村 「いや、どうだろ。それほど小さくはないですね。普通の大きさの歯エクソシストです。それがビッシリと」


吉川 「だから知らねーんだよ!」



暗転

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