同窓会

吉川 「久しぶりー」


藤村 「あれ? ひょっとして……」


吉川 「わかる?」


藤村 「寝起き? 目やについてるよ」


吉川 「誰かわかるかの話じゃないんだ。ついてた? ごめんなさいね」


藤村 「あれ、なんだっけ? ……川。川が付く名前だよね?」


吉川 「川つく」


藤村 「インダス川?」


吉川 「そんな名字の人間が同窓にいたら大事件じゃない?」


藤村 「なに川だっけ?」


吉川 「吉川」


藤村 「そう! 吉川。すぐわかったよ! もう半径5kmに入った時点でわかってた」


吉川 「特殊能力者なの? わからないでしょ、それは」


藤村 「本当は一瞬迷った」


吉川 「だよな!」


藤村 「半径5kmに入ったかな~? ギリ入ってないかなぁ~? って」


吉川 「それはわかってたんだ。怖いな。なにその気持ち悪い能力」


藤村 「でも変わってないな~。目やにも相変わらずついてるし」


吉川 「昔からだった? 恥ずかしいな。その時指摘してくれよ」


藤村 「目やに以外は面影全然ないけど」


吉川 「目やにが俺のアイデンティティだったの? そこで誰か判別してた?」


藤村 「俺のことはわかる?」


吉川 「あ、うん。待って。わかるよ、わかる」


藤村 「なんだよー、サッと出てこないのかよ」


吉川 「神戸?」


藤村 「惜しい! 藤村だよ」


吉川 「あ、惜しかった? どの辺が惜しかったのかこっちはわからないけど」


藤村 「わかるだろ。当時周辺地域で最も大きな金玉を持つものとして君臨していた藤村だよ」


吉川 「それは知らなかった」


藤村 「ホント? あの頃はどこに行っても金玉扱いだったよ」


吉川 「金玉扱いのエピソードをよくそんな朗らかに話せるな。いじめじゃないの、それ」


藤村 「今はもうそれほどでもないから。吉川はどうなの? 結婚とかは?」


吉川 「あ、うん。一応ね。子供も二人いる」


藤村 「へー。子供二人かぁ。金玉の総数は?」


吉川 「性別を金玉の数で聞くのやめな。よくない。色々よくないよ」


藤村 「でも今の時代だと身体の性別が必ずしも本人の認識とは違う場合もあるから」


吉川 「そこまで時代的な認識あるのに、なんで聞くのは金玉の数なんだよ。逆にそれを知ってどうするつもりなんだよ」


藤村 「そうだな。あんまり立ち入ったことを聞くのも何だからな」


吉川 「普通に聞いてくれよ。別にそれほど立ち入った話じゃないんだよ。入る時に特殊な立ち方しすぎなんだよ」


藤村 「なんかあれだな。色々聞くのも難しいんだよね。ほら、色々と厳しい時代だからさ。思ったように生きれてない人だって多いわけじゃん。仕事を失った人だっているだろうし、そういうのに無神経に聞くのもよくないからさ」


吉川 「わかることはわかるよ。気を使う部分はあるからね。だからと言ってさっきの聞き方はどうかと思うけど」


藤村 「そっかぁ、奥さんはあれなの? とんでもないブスなの?」


吉川 「おいっ! 気遣いどこ行った! よくそんなブレーキぶっ壊れた質問できるな。さっきの配慮の仕方はなんだったんだよ」


藤村 「あ、ごめんごめん。そんなつもりはなくて。平均的なブスと比べるとどのくらいのレベルなのかと」


吉川 「なんでブス前提なんだよ。会ったこともないのに」


藤村 「吉川と結婚するくらいだから、やっぱり方向性としてそうなのかと」


吉川 「美人とまでは言わないけど! ブスじゃないよ! そもそもそんなことを俺に言わせないでくれ。悲しくなるよ」


藤村 「わるかった。そこまでお前がブスを嫌悪していたとは思わなかったから」


吉川 「おいおい。上手いこと俺が差別主義者みたいな流れに変えた? そういうのじゃないだろ、妻をブス呼ばわりされたら誰だって怒るよ」


藤村 「ごめんな。久しぶりすぎて距離感間違っちゃった。あれだっけ? 俺たちって当時はそんなに仲良くなかったっけ?」


吉川 「まぁ、特別仲がいいという関係ではなかったよ」


藤村 「だよね。でもまぁこうして会うと、あの時代の同じ空気吸ってたってだけで、他にはない連帯感みたいのは感じるよな」


吉川 「それはある」


藤村 「すごい時代だったからな。今でも思い出すよ。第二次金玉事変」


吉川 「それは知らない。第一次すら知らない」


藤村 「まじで? 知らないわけないだろ」


吉川 「あの頃、そんなに金玉のエピソードには事欠かない日常を送ってないし」


藤村 「あれ? ひょっとして会場間違えたかな? 話もさっきから食い違ってるし」


吉川 「そうかも知れない。話し合わせておいてなんだけど。どういう会なんですか?」


藤村 「いや、どうだろうな。違うのかな。すみません、吉川さん。金玉ついてます?」


吉川 「そりゃ、ついてますよ」


藤村 「あ、じゃあここだわ」


吉川 「どんな会なんだよ!」



暗転


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