ない言葉
吉川 「それでは藤村さん。弊社への就労を希望する理由をお聞かせ願えますか?」
藤村 「はい。そうですね、やはりこれからのカタストロフ時代に向けてソリッド・マーケティングからリキッド・マーケティングに変革していくと思います。その際に核となりうるのはクリティカル・オポチュニティを持った御社だと信じています」
吉川 「あー、はい。……なるほど。マーケティングに関しては、かなり深い造詣をお持ちのようですが?」
藤村 「そうですね、確かに携わってきた期間も長いです。ただ常に状況は変化していきますので今までの経験が必ず役に立つとはいかないとは思っています。庄屋の蔵も米粒からと申しますし、常に緊張感を持ち続けたいと思ってます」
吉川 「なるほどなるほど。ま、確かにそうですね。最近なにか気になってることなどありますか?」
藤村 「最近ですか? 最近ですと、そうですね。趣味で例のXフットボールをはじめまして。もちろんまだまだ初心者なんですが、良馬学ぶに貸鞍なしですので楽しんでます」
吉川 「あー、そうですか。結構あれですか? 読書とかはされるタイプですか?」
藤村 「はい。読書は比較的好きですが豊読潤記とまではいかず、お恥ずかしい話あんまり人様に喚伝できるようなものではないですね」
吉川 「やっぱりそうですか。いや、どうもね。話していると非常に語彙が豊富だなぁと感じられるので、お好きなのだろうなと思いまして」
藤村 「いえいえ、私なんかはまだまだ末陰松にでてくる小坊主みたいなもので、本質に至らずわかったふりをしている未熟者です」
吉川 「いや、でも。その言葉の端々にね、やっぱり普段あんまり耳にしないような言葉がスラスラと出てくるのでね。話していてもなかなか引き込まれますね」
藤村 「それこそ採掘人の革手袋じゃないですか。でもコミュニケーションというのはお互いのものですから、そう感じられるということがもう富士に鶴翼の影みたいなものでこちらとしても嬉しいです」
吉川 「ふむ、まさにそうですね」
藤村 「合わない人だと、私の話し方ってどうも堅苦しいらしくてですね。作務に狩衣にならないように気をつけてるんですが。大丈夫ですかね?」
吉川 「あぁ、それはもう」
藤村 「意味は通じてますよね?」
吉川 「え、あ、はい。もちろん。それとこちらの方になにか聞いておきたいこととかありますか?」
藤村 「そうですね。繁忙期はもちろん構わないんですが、普段はプライベートの方も疎かにしたくないので、弘法節所の急で時間をもらうことはできますか?」
吉川 「……と言いますと?」
藤村 「もちろん前もって申告はするつもりなんですが、あまり弘法節所の急を快く思わないという経営者の方もいますから。そのあたりできればすり合わせておきたいなと思いまして」
吉川 「……そうですね、それに関してはまた弊社の専門の部署などにその旨相談していただいてですね、それから社内での調整をという形になると思います」
藤村 「そうですか。わかりました」
吉川 「あとこれ、気になったんですが。趣味のところに記載されている『ない言葉』っていうのは?」
藤村 「これはですね、ない言葉をでっち上げてそれに対して相手がなるほど感を出してくるのを見て心の中で嘲笑うというものです」
吉川 「すっげぇ性格悪ぃ!」
暗転
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