ようつべ

藤村 「はいっ! というわけでですね、これからキャンプ飯を作っていきたいと思います」


吉川 「いや、ありきたりすぎだよ。ユーチューバーになるんでしょ? おじさんがただ屋外でごはん作るのなんて何の面白みもない。同じことしてる人なんて2億人いるよ」


藤村 「ダメかな?」


吉川 「見る人の気持ちを考えてよ。なにが悲しくておじさんの地味なごはんを見るのに人生の時間を割かなきゃいけないんだ」


藤村 「見る人の気持ちか……。そうだな。見たくなるようなものじゃないとな。思い切ってTバック履くか」


吉川 「ビックリさせないでくれよ! なんだよそのいらない決意は! まさか減点の方向でチョイ足ししてくるとは思わなかったよ」


藤村 「見せはしないよ? 恥ずかしいし」


吉川 「照れるなよ。最悪だよ。その羞恥心含めて最悪だよ。勝手にTバック履いて照れてるおじさんのキャンプ飯、誰が喜ぶんだよ!」


藤村 「こうなったら徳川十五代全将軍を暗記してキャンプ飯を作るっていう動画にするしかないか」


吉川 「背筋が凍るような提案だな。面白味という言葉の意味をそもそも理解してるか?」


藤村 「もちろん特に言いはしない。ただ覚えてるだけ」


吉川 「そのトレーシングペーパーより薄いチョイ足しはなんなの? 香り付けに月桂樹の葉をサワァ~ってしました程度の。この世の中に『ほうほう、徳川十五代全将軍を暗記とな?』という興味でキャンプ飯の動画を見る人が存在すると思う?」


藤村 「Tバックは履いたまま」


吉川 「いらねーんだよ。なんの追い風にもなってないんだよ」


藤村 「じゃあさらに、あとちょっとで切れそうなミサンガをつけたままやる」


吉川 「意識が遠のくよ! なんだよ、その控えめなサスペンス要素。図書委員より控えめだよ! ミサンガってのは切れて初めて意識されるもので繋がってるミサンガは人類の意識に上がることはないんだよ。存在しないのと一緒! どんなに切れそうでもミサンガである限りエンタメになることはないんだよ」


藤村 「でもキャンプ飯だと手元が多く映るし」


吉川 「邪魔なの! むしろ不愉快なの。そんなビロビロしたものをつけてキャンプ飯作られても。BAD評価間違いなしだよ」


藤村 「ついでにTバックの横のヒモも切れそうになってる」


吉川 「紐パンなの? 紐パンなの、と聞いておいてなんだけど、だからどうした! どうでもいいんだよ。切れそうが食い込もうがお前のTバックになにかを期待する人なんていないんだよ。むしろそこまでTバックをフューチャーするならキャンプ飯の部分が邪魔になりつつあるよ!」


藤村 「もちろんキャンプ飯の材料は素手でひねり殺したアンキロサウルス」


吉川 「急に圧倒的なエンタメ性! アンキロサウルスを素手でひねり殺すの?」


藤村 「ま、そこは長くなるからダイジェストで」


吉川 「そこをダイジェストにしてどうするの? 肉を旨味が全部出るまでクッタクタに煮て、それを全部捨ててふりかけごはん食べ始めるようなものだろ。そこしか美味くないんだよ。アンキロサウルスはそもそもどこから来たんだよ」


藤村 「アンキロサウルスはその辺にいるやつで」


吉川 「いねーんだよ! アンキロサウルスがノッシノッシしてるキャンプ場この世にないんだよ。その映像だけでユーチューバーとして食っていける材料なんだよ」


藤村 「そうなの? うちの田舎じゃ当たり前だったから」


吉川 「白亜紀から来たの? すごいよそれ、見たいよ! その田舎の映像」


藤村 「でもあんまり注目されると恥ずかしいというか。Tバックだし」


吉川 「もうTバックやめろよ! 無駄な要素なんだよ。本当に邪魔。白亜紀の田舎に対するTバックの効果は砂漠の砂埃以下だよ」


藤村 「キャンプ飯も自信ないけど、まぁ失敗したらしたで動画として面白ければいいか」


吉川 「もうそこじゃないんだよ。アンキロサウルスを前にしておじさんのキャンプ飯を気にできるメンタルがあったら世界一気が利く執事になれるよ」


藤村 「そんなに? 他のサウルスもいるけど。一番いいのは何かな?」


吉川 「サウルス各種取り揃えていてなんでおじさんのキャンプ飯をコンテンツにしようと思ったんだよ」


藤村 「意外と本人にとってはありふれてるから気づかないものなんだよな」


吉川 「本当に気づかなかった? 気づかないふりだったんじゃないの? ラノベのハーレム状態だったよ?」


藤村 「よし、じゃ早速動画を撮りますか。なんか色々言ってくれて参考になったよ。ありがとう。あれ? でもどうしよう……」


吉川 「どうした? やっぱアンキロはいないのか?」


藤村 「家斉が先だっけ? 家治だっけ?」



暗転

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