取り調べ

藤村   「では取り調べをはじめます」


吉川 「なに? 聞こえないんだけど。なんつった?」


藤村 「あの、取り調べを調べとります」


吉川 「なんだ調べ取りって。回文か?」


藤村 「あ、あの、すみません。ちょっとあの」


吉川 「なに? どうした?」


藤村 「き、緊張しちゃって」


吉川 「緊張してるの? 警察官の方が?」


藤村 「まさかこんなすごい人を相手に取り調べをすることになるとは。あぁ、どうしよう」


吉川 「それあれじゃないの? そういうテクニックなんじゃない? 俺を油断させて色々聞き出そうとしてるんじゃない?」


藤村 「ユダ? あなたがユダってこと? 自白ですか? 今自白しました!?」


吉川 「ちょっと落ち着け。油断。取り調べで『俺がユダだ』なんてドラマチックに自白する人いないだろ」


藤村 「あ、すみません。緊張しちゃって。前もこんな調子で失敗しちゃって。証拠を引き出せず、結局こんなに円安になってしまい日本を苦しめる結果に」


吉川 「円安も? そんな原因を作ったような大事件を担当してたの?」


藤村 「はい。窃盗で」


吉川 「関係ないんじゃないですか? そんな一犯罪者が世界的な金融の流れに干渉しますかね?」


藤村 「私があの時きちんと取調べできていれば!」


吉川 「背負い込みすぎだな、多分あなたのせいじゃないですよ。もっと気楽に」


藤村 「これで今回も私が失敗したら、AIが反乱を起こして人類が滅亡してしまうかもしれない」


吉川 「その引き金に俺がなるの? 俺はなに? 人類の未来における敵だったの?」


藤村 「そうなんですか?」


吉川 「いや、違うけど。少なくとも現時点で全く自覚はないけど」


藤村 「じゃ、無罪かな。すいませんでした」


吉川 「それも判断早すぎない? 俺としてはいいけどさ。いいのそんなので? それで開放されちゃうシステムやばすぎない?」


藤村 「すみません、もうわかんないんで。どうにかしてください」


吉川 「俺が? 自発的に? わかってる? 俺は勾留されて一応罪は認めてるけど、帰っていいなら帰るよ?」


藤村 「私を完全に手玉に取ってるってことですね」


吉川 「あなたが自発的に玉になってるだけじゃない。まだ俺はなにもしてないよ」


藤村 「もうこっちは限界なんで。そんな難しいこと言われても困ります」


吉川 「難しくないよ。先に音を上げる警察官初めて見たよ。そのしつこさの部分だけが警察官の取り柄みたいなものだと思ってた」


藤村 「でもあなたを逃がすと異星人を引き連れて地球を侵略しに来るんでしょ?」


吉川 「俺はなに星人? 地球人の仲間だと思われてなかったの? それはもう犯罪者のレベルですらないと思うよ」


藤村 「だったらもう自白してくださいよ。私のような一介の警察官に対処できるような事態じゃないです!」


吉川 「事を大きくしすぎだよ! 俺を世紀の大悪人として処理しようとしてる?」


藤村 「ヒィィ! すみません! 身体の内部から煉獄の炎で焼き尽くすのだけは勘弁してください!」


吉川 「俺にそんな特殊能力が!? そんな能力あるのに大人しく捕まったのは逆になんでなんだよ」


藤村 「違うんですか!? だったら一体何者なんですか! 深夜の公園であんな格好で!」


吉川 「それは開放感が……」


藤村 「開放!? 世界中の囚われてる凶悪犯をいますぐ開放しろということですか! もうおしまいだ! 世界は! 私の取り調べので!」


吉川 「違うんだよ。壮大なドラマの幕開けじゃないんだよ。あの開放した時点でゴールなんだよ!」



暗転

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