因縁

怪人 「教えてやらねばならぬようだな。我ら一族と、人類との因縁を」


吉川 「因縁だと?」


怪人 「数万年前、まだお前たちが木の上に住んだサルだった頃、我ら一族はこの星にやってきて叡智を与えた。それによりお前ら人類が生まれたのだ!」


吉川 「な、なんだって……!?」


怪人 「そう、世界中で語られる神話の登場人物こそ、我ら一族なのだ。神にひれ伏すがいい!」


吉川 「そんな! そんな重要な真実を! 怪人ランジェリンボーが語っていいのか? 普通そういうのはラスボスとか大幹部が打ち明けることじゃないのか!」


怪人 「いいだろ! 別に! 俺だって一族なんだから」


吉川 「そもそもなんなんだよ、お前の怪人としてのコンセプト」


怪人 「ランジェリーとリンボーダンスの合成怪人だが?」


吉川 「そんなやつがよく神みたいな顔して語ったもんだな! ランジェリーもリンボーダンスも最近の人間が考えた概念じゃねーか! 数万年前にお前は影も形もないだろ」


怪人 「それは違う! 俺たちのおかげで生まれた人間の、その概念を集めて恐怖を醸し出した怪人なんだから。俺はまだ若いけど俺自身の問題じゃなくて一族の問題だから。存在としてこっちが上だから」


吉川 「そもそもリンボーダンス自体がほぼランジェリーみたいな格好でするものじゃねえか! 融合したのに意外性がまったくないんだよ。リンボーダンスが得意な変態とさほどかわらない感じになってる」


怪人 「俺が選んだんじゃねえんだからしょうがないだろ! そういうのよくないよぞ! 生まれっていうのは選べないんだから、それを揶揄するような事を言うのはよくない」


吉川 「急に現代的な価値観持ち込みやがったな。数万年前の話をしていたくせに」


怪人 「そういうことをいう愚かな人類だから俺たちが支配しようっていうの!」


吉川 「いや? この価値観は現代の人類がたどり着いた価値観だろ? 神話の価値観なんてクソだぞ? 男尊女卑もいいところだし、今どき神の威光にひれ伏すようなやつの方が危ない感じだぞ」


怪人 「あのさ! 口で言い負かそうとしないでくれない? そういうのじゃねーから! こっちは怪人として来てるんだから、解決は暴力でするのが礼儀だろ」


吉川 「ほらそれだよ。お前らの一族は数万年前の価値観でそうやって生きてるんだろ? たまに現代人の価値観のいいとこ取りをして。そんな存在であることが恥ずかしくない?」


怪人 「ちょっと一旦待ってよ! そんなに言わないで! 俺だって上から言われてきただけだからそういう理論武装とかちゃんとできてないわけ。そこをつくのずるいんだよ。こっちはアドリブ苦手なんだから」


吉川 「……そんなこと言うなよ。お前だって一生懸命生きてるんだろ? 自分に誇りを持てよ。周りの奴らはお前に対してとやかく言うかもしれないけど、自分だけは自分を信じてやれよ」


怪人 「素敵なことを言うんじゃねぇよ! こっちはランジェリーとリンボーダンスでどうにかしようとしてるんだよ! お前らはただ恐怖に慄いてキャーキャー喚いてればいいんだよ!」


吉川 「違うよ。ランジェリーもリンボーダンスも、人を楽しませるために生まれたものだ。そこに恐怖なんてない。キミはその気になれば多くの人を笑顔にできるはずだ」


怪人 「やめてください、本当。キミとか呼ぶのも。よくないよ。そういう雰囲気を作るの絶対に良くない。こっちは使命とか色々あって来てるんだから。ブレるからやめて」


吉川 「確かに我々は愚かな人類かもしれない。何万年も争いをやめられず、命を奪い続けている。でもそんな愚かさを積み重ねてここまで来たんだ。そこに希望は感じないか? そしてランジェリンボーという類まれなる姿をしたキミこそ、そんな人類とともに未来を歩めると思わないか?」


怪人 「ああ、うう。あの。ちょっと一旦持ち帰っていい? もう無理だから。キャパオーバーしてるから」


吉川 「他の怪人ではなく、キミと共に未来を見たいんだ!」


怪人 「この俺の口の上手さは我が一族の中でも下の方だから! この俺を言いくるめても第二第三の口の上手いやつがやってくるからな! どうなっても知らねーからな!」


吉川 「……チョロい」



暗転

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