似顔絵

吉川 「似顔絵?」


藤村 「描かれたことあります?」


吉川 「いや、ないです」


藤村 「嘘でしょ! すごい似顔絵描きやすそうな顔してますよ。全似顔絵描きがほっとかない」


吉川 「そんな風に言われたの初めてですね」


藤村 「どうです? 一枚。指名手配にもちょうどいいですよ」


吉川 「なにがちょうどいいんだよ。されないよ、指名手配。どんな誘い方だよ」


藤村 「お客さん、あの人に似てるって言われません? 政宗。伊達政宗」


吉川 「言われたことないなぁ。だいたい伊達政宗がどんな顔してるのかよく知らないし」


藤村 「そうですかぁ。じゃ、あの人は? 山本勘助」


吉川 「ないです。だいたい山本勘助って実在なんですか?」


藤村 「あの人は? ハンニバル。カルタゴの」


吉川 「全部隻眼の人じゃないですか? ちゃんと両目パッチリですけど?」


藤村 「違います違います。全体の雰囲気が」


吉川 「伊達政宗とハンニバルの全体の雰囲気どんなだよ。目以外の特徴ないだろ!」


藤村 「眉毛とかって自分で整えてるんですか?」


吉川 「普通に美容院でやってもらって」


藤村 「あー、だからか」


吉川 「だからなんですか?」


藤村 「いえ、別に。言うようなことじゃないんで」


吉川 「言うようなことじゃなかったら、思わせぶりなこと聞かないでくれる? なんなの?」


藤村 「いえ、あの。いいと思いますよ。そういう人が世界に一人くらいいても」


吉川 「なんなんだよ。別にオンリーワン目指してないんだよ」


藤村 「ほら、お客さんの眉毛、マジンガーZのブレストファイアーの形に似てるんで。美容室で『ブレストファイアで』って頼まれてるのかと思っちゃって」


吉川 「言わないよ。どんな形だよ、知らないんだよ。マジンガーZは」


藤村 「そう言えば知ってます? 顔の系統で縄文系と弥生系があるの」


吉川 「あー、なんか聞いたことはあるな」


藤村 「へぇ、聞いたことあるんですね!」


吉川 「あぁ、うん」


藤村 「物知りですねぇ」


吉川 「……んで? 俺の顔はどっちなの?」


藤村 「なにがすか?」


吉川 「なにがじゃないだろ。縄文系と弥生系。どっちかっていう話題じゃないの?」


藤村 「あるって話聞いただけなんで」


吉川 「似顔絵描いてるんでしょ? 似顔絵の時のトークとしてそういうの持ちネタなんじゃないの?」


藤村 「いえ、私の持ちネタはギューって乳首つまむと男でもなんか汁みたいの出るって話で」


吉川 「なんだよ、その気持ち悪い話! 似顔絵と全然関係ないし」


藤村 「持ちネタ聞かれたから」


吉川 「そんな気持ち悪いネタ持つなよ! 一刻も早く捨てろ」


藤村 「むかしソース顔としょうゆ顔って流行ったじゃないですか?」


吉川 「膨らまないんだろ、どうせその話」


藤村 「乳首からでる汁なんですが、なんかしょっぱくてソースっぽいですよね」


吉川 「膨らますなよ! その持ちネタを! 顔の話で膨らませろよ。まじで気持ち悪いから」


藤村 「お客さん、鼻のラインが特徴ありますね」


吉川 「あー、それは言われたことある」


藤村 「でしょ。シュッとしてて柳生十兵衛みたいな」


吉川 「お前、柳生十兵衛の顔見たことあるの? 何を基準に柳生十兵衛持ち出してきてるの?」


藤村 「はい。だいたいできました。あとは目と口と触手だけかな」


吉川 「触手ってなんだよ! ないだろ、俺の顔に。そもそも目と口がまだなのにだいたいってどういう見積もりしてるんだよ」


藤村 「どうします? ここから似顔絵みたいにもできますけど?」


吉川 「じゃ何を描いてたの!? 似顔絵に向かって出発してたわけじゃないの? 今はどういう段階なの?」


藤村 「今はまだ眼帯のところだけで」


吉川 「眼帯つけてねーんだわ。似顔絵描くんじゃないなら帰るよ」


藤村 「ちょっと待ってください。ここから一気ですから」


吉川 「描く気ねーんだろ、最初から」


藤村 「そんなことないですよ。やる気だけしかないですから!」


吉川 「技術もあれよ! 本当に描こうと思ったの?」


藤村 「ええ。夏侯惇もったんすよ」


吉川 「目! まず二つ描け!」



暗転

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