読み間違え

藤村 「本日のゲストは様々な分野で活躍中の吉川よしかわさんです」


吉川 「あ、いえ。はい。こんにちは」


藤村 「さて吉川よしかわさん。注目を浴びてご多忙だとは思いますが」


吉川 「あの、すみません。吉川きっかわです」


藤村 「はい?」


吉川 「あの、読み方が。吉川きっかわです」


藤村 「大変失礼しました。改めまして。注目を浴びてご多忙きっかわだとは思いますが」


吉川 「いえ、それはあってます。そこはご多忙たぼうです」


藤村 「あ、そうですか。大変失礼しました。注目きっかわを浴びてご多忙だとは思いますが」


吉川 「違います違います。名前がです。名前が吉川きっかわ。注目は注目です」


藤村 「え? 注目を浴びっかわ?」


吉川 「そんな言葉ないです。名前! 私の名前が吉川きっかわです」


藤村 「私なんて言いました?」


吉川 「吉川よしかわって言ってましたね」


藤村 「そんな! 呼び捨てでなんて呼びませんよ」


吉川 「いや、さんはついてました。呼び捨てではなかったです」


藤村 「ですよね? でしたら何が問題か」


吉川 「読み方間違ってたんですよ」


藤村 「そう……でした? ちょっと確認するので2時間ほどいただけますか?」


吉川 「確認にかかるなぁ! いや、いいです。だったらいいです! 間違ってませんでした」


藤村 「そうですか? そうおっしゃるなら。では吉川よしかわさんの今後のご活躍……」


吉川 「吉川きっかわです!」


藤村 「はい。え?」


吉川 「吉川きっかわ! 吉川きっかわです! 読み方。ちょっと違ってたみたいなんで」


藤村 「……ということはアレですか? 私は藤村ふじむらではなく藤村とうそんということですか?」


吉川 「なんですか急に。違うんじゃないですか? 藤村とうそんって島崎藤村みたいになると下の名前ですもん」


藤村 「ではあなたは?」


吉川 「吉川きっかわです」


藤村 「ですよね。はい。それでは引き続き吉川よしかわさんにお話を伺いたいと思います」


吉川 「なに? 逆に怖いな。なんか」


藤村 「何がですか?」


吉川 「すごい頑なに間違えてるんですけど」


藤村 「これは大変失礼しました。この時間、インタビューじゃなくて尻相撲選手権しりずもうせんしゅけんの予定でした?」


吉川 「いえ、インタビューだって聞いてます。そんな間違え方しないでしょ」


藤村 「尻相撲選手権しりずもうせんしゅけんは16時からでしたっけ? この場所でやるんですよね? みたいです」


吉川 「全然それは知らなかったです。ここでそういうのやるんですね。そうじゃなくて読み方」


藤村 「あ、間違ってました?」


吉川 「はい。吉川きっかわです。吉川きっかわ


藤村 「では第612回尻相撲選手権きっかわはりきってまいりましょう!」


吉川 「違う。尻相撲選手権しりずもうせんしゅけん吉川きっかわとは読まない。そんな無茶なキラキラネームないよ。間違いだと思うこと自体おかしいでしょ」


藤村 「私のインタビューの聞き方に問題があるということでしょうか?」


吉川 「インタビューは全然問題ないんです。ただ読み方間違ってるなぁって気になっちゃって」


藤村 「すみません、気をつけてるつもりなんですが。ちょっとやっぱり本人を目の前にすると緊張してしまって」


吉川 「あぁ、大丈夫です。私が気にし過ぎなのかも。ね。あとで編集で上手いことやればなんでもないことなんで。大丈夫です。続けてください」


藤村 「ありがとうございます。そう言っていただけると気が楽になります。では改めまして。尻相撲選手権しりずもうせんしゅけんさんの今後の野望をお聞かせ願えますか?」


吉川 「尻……。うん。はい。私、吉川きっかわの今後の考えですけど、やはり各方面から期待されている部分は受け止めますが、それも今までやってきたことの成果でもあるので、あまり浮足立たずに今まで通りしっかりとやっていきたいと思います」


藤村 「ありがとうございます。あれ? なんですかあなた。今インタビュー中なんで! え? あれ? 吉川よしかわさん?」


吉川 「吉川よしかわです。この時間、ボクのインタビューだって聞いて……」


藤村 「え? じゃああなたは誰なの?」


吉川 「尻相撲選手権きっかわです」



暗転

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