行列
吉川 「すみません。最後尾ってここですか?」
藤村 「そうです。私が最後尾です」
吉川 「わかりました」
藤村 「ちょっと待って。そこにいられると私が最後尾じゃなくなっちゃうんですけど?」
吉川 「はい。そうですね。ボクが最後尾です」
藤村 「なんなんすか? 断りもなく。人の最後尾奪って」
吉川 「え? どういうことですか? これ、並んでるんですよね?」
藤村 「そうですよ。それで今まで私が最後尾を死守してたんです。なにがあろうと私が守ると。金ヶ崎の戦いの木下藤吉郎のような決意でいたんです」
吉川 「でも行列に並ぶって、こうやって後ろに続くもんじゃないですか?」
藤村 「そうだとしても、最後尾が私である限り譲れません」
吉川 「じゃあ並びたい人はどうすればいいんですか?」
藤村 「気の毒だけど今回は諦めてもらうしか」
吉川 「嫌ですよ。並べばいいんでしょ? そういうルールでしょ?」
藤村 「実は私、背後に回られると殺してしまう習性があるんです」
吉川 「ゴルゴじゃん。そんな習性の人が行列に並ばないでくださいよ」
藤村 「本当に頼むから。じゃ、わかった。整理券を発行します」
吉川 「え? 整理券を? あなたが?」
藤村 「はい。私の後ろに並ぶ順に」
吉川 「あなたが個人的に発行した整理券なの? 別にあなたはお店と関係ないでしょ? ただ並んでる人でしょ?」
藤村 「はい。ただ並んでる人の後ろに並ぶ整理券」
吉川 「なんで非公式の下請けみたいなことしてるんですか。ダメですよそんなの。あなたになんの権限もないし」
藤村 「でも言わせてもらうならば、あなたよりも先に並んでたという時点で私の方が先輩なわけです。行列内における力関係はなによりも先着順ですから」
吉川 「力関係とか持ち込まないでくださいよ。行列に。なんでそんなマウント取ろうとするのかな」
藤村 「あなたが先輩である私に対して楯突くからこう言わざるをえないんです」
吉川 「行列内のヒエラルキーみたいなのやめてくださいよ。ただ並んでるだけでしょ」
藤村 「私も今まで辛い思いをしてきたんですよ。先輩たちからお前なんて最後尾だと罵られ。どうせ私は最後尾の人間なんだと枕を濡らした夜も少なくありません」
吉川 「なに言ってるの? そんな列に並ぶのやたほうがいいですよ」
藤村 「だけどね、思い直しました。最後尾には最後尾のプライドがある。こうなったら誰もが振り返るような世界最高の最後尾になってやろうと!」
吉川 「人生のゴールを行列に設定する人間いないでしょ。何を目指してるの」
藤村 「そうして血と汗を流し、努力の末にたどり着いたこの最後尾」
吉川 「ただ来るのが遅かっただけでしょ」
藤村 「お前のようなにわかの最後尾ワナビーに渡してなるものか!」
吉川 「別に最後尾は求めてないんですよ。そもそも行列に並ぶことだって求めてない。お店に行きたいだけなんです」
藤村 「どうしてもというのなら、この私を倒してから行くがいい」
吉川 「なんで門番的な中ボスみたいなこと言いだすの? いざこざはゴメンですって」
藤村 「だったら法廷で戦おう。ただし結果が出るまで最後尾は譲らん」
吉川 「最悪のゴネ方をするな。だったらあなたが最後尾でいいですよ。私を前に入れてあなたが最後尾を守り続ければ」
藤村 「その手があったか!」
吉川 「では失礼」
藤村 「すみませーん! この人、横入りしてきたんですけどー!」
吉川 「理不尽!」
暗転
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます