リレー小説

吉川 「一緒にやってるリレー小説なんだけど」


藤村 「もう書けた? 俺の番?」


吉川 「あの、言いにくいんだけどさ。毎回引きでゴリラが出てくるのなんなの?」


藤村 「だってゴリラが出ない小説よりもゴリラが出る小説のほうがゴリラの分だけ得だろ?」


吉川 「ゴリラの分ってのがよくわからない。その分量は何に影響するの?」


藤村 「ゴリ得じゃん?」


吉川 「その得のジャンルはじめてみた。はっきり言ってこっちは毎回お前が増やしたゴリラの回収をするのでいっぱいになっちゃって話が進まないんだよ」


藤村 「ゴリラは普通にいてくれていいんじゃない?」


吉川 「毎回お前が終わる時『その時、なんとゴリラが!』って煽る感じで登場するしさ、放っとけないじゃん」


藤村 「それを言うなら逆に言わせてもらうけどさ、俺がせっかく出したゴリラを全然活かせてないの毎回気になってるんだよね」


吉川 「せっかく出したの? そのせっかくは全然ありがたくないんだけど」


藤村 「なんで? ゴリラだよ? もう何をしても加点される状態なのに」


吉川 「お前のそのゴリラに対する全幅の信頼はなんなんだよ。ゴリラの扱いなんてわからないよ」


藤村 「わからないなりにさ、何かやらせてみればいいじゃん。なんで『気のせいでした』とか『何も言わずに立ち去っていきました』みたいなゴリラチャンスを潰す方向に書くの?」


吉川 「チャンスなの? ゴリラチャンスってお前以外の人間が認識してるチャンスなの?」


藤村 「だってウータンチャンスよりも上位だろ?」


吉川 「待って待って。初っ端の概念を理解してないうちから釣瓶撃ちしないで」


藤村 「ゴリチャンはもうなにをやっても面白い状態だよ。そんなお膳立てしてあげてるのに俺の番に回ってくる頃にはゴリラは解散してるんだもん。毎回ゴリラ砂漠で書かなきゃいけない俺の気持ちもわかって?」


吉川 「俺がゴリラ砂漠にしてたの? ゴリラ不毛の地に。ゴリラがいるのを望んでたの?」


藤村 「当たり前だろ? なんの小説だと思ってるんだよ」


吉川 「なんのって、人類が未曾有の危機に立ち向かうSFだよね?」


藤村 「そうだよ。そんなピンチが人類だけでどうにかできると思ってるの?」


吉川 「いや、ゴリラが来ても何一つ役に立たないでしょ。力強いだけだよ」


藤村 「あー、そういう感じなんだ。差別主義者?」


吉川 「違っ! ゴリラだよ?」


藤村 「ゴリラのポテンシャルをなめるなよ?」


吉川 「えー。ないだろ、ゴリラにそんなポテンシャル」


藤村 「例えばだ、今こうして俺とお前は意見が食い違ってる。ムードも険悪だ。最悪な状況だよ。ここにゴリラが現れたらどうなる?」


吉川 「ビックリするよ。それどころじゃなくなるよ」


藤村 「だろ? 人類の問題なんてゴリラ一つでどうにでもなるようなことなんだよ」


吉川 「なってる? どうにかなってた? ゴリラ一つで」


藤村 「試しに委ねてみな。ゴリラに。話はそこからだよ」


吉川 「委ね方もわからないんだよ。ゴリラに委ねてる小説読んだことないから。あらゆるエンタメでゴリラに委ねてどうにかなってる前例がないよ」


藤村 「そうか? ゴリラって勝手に動き出すキャラじゃん」


吉川 「お前のゴリラに対する信頼感すごいな。一歩も動かないよ、俺のゴリラは」


藤村 「そうかー。そういう認識の齟齬があるのか。じゃ、次は忍ゴリにするわ。忍者のゴリラ」


吉川 「厚みをもたせるなぁ、ゴリラに。忍者でよくない? ゴリラの時点でこっちはフリーズよ」


藤村 「じゃ、こうしよう。お前は主に人間パートを書いて、俺はゴリラパートを書く」


吉川 「ゴリラパートがある小説なの? そんなの読んだことないけど」


藤村 「視点がゴリゴリ動くから」


吉川 「そのゴリは何? 擬音? ゲシュタルト崩壊するからあんまり使わないで」


藤村 「ただゴリラパート書くとなるとアレだな。逆に人類って必要かな?」


吉川 「もうやめよう。リレー小説」



暗転

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