凄腕

吉川 「あなたがどんな仕事でも請け負うという凄腕ですか?」


藤村 「どうも噂が独り歩きしてるようだな。俺はそんな大層なもんじゃない。断ることができない気の小さな人間さ」


吉川 「そんなあなたを見込んで依頼をしたいのです」


藤村 「参ったなぁ。厄介なことは苦手なんだけど」


吉川 「なんかその飄々としたところ、実は凄腕って感じがします」


藤村 「そんなことない。それにしてもよくここがわかったな」


吉川 「お願いします! どうか依頼を受けてください」


藤村 「穏やかじゃないねぇ。ただ俺の仕事は高いよ?」


吉川 「命には替えられません。あなたの腕を見込んで!」


藤村 「アプリをダウンロードすれば5000円引きクーポンがついてくるけど」


吉川 「急に腕が疑わしい発言! 今まで凄腕感あったのに」


藤村 「あ、今のなかった方がいい? じゃ、なしで。クーポン使えません」


吉川 「クーポンが使えるか使えないかの問題じゃないですよ。もうちょっと謎めいていて欲しかった」


藤村 「俺の血液型何型だと思う?」


吉川 「あー、更に凄腕感落ちたわ。それは謎めきじゃないのよ。無理やり謎つくるのは。別に知りたくないもの血液型」


藤村 「ダメ? あの、大丈夫だから。チャンスちょうだい。凄腕挽回チャンスを」


吉川 「はい。今回の問題に関わってる相手なんですが……」


藤村 「言わなくていい。わかってる」


吉川 「お、凄腕!」


藤村 「ほぼわかってる。わかってるけど、念のためヒントは?」


吉川 「あー、ダメだ。凄腕落ちた」


藤村 「今のもダメ? ヒントだけだよ? 答えを教えてって言ってるわけじゃないよ?」


吉川 「ヒント聞くなら答え聞いても同じだよ。ノーヒントでやるから謎めいてていいのに」


藤村 「じゃ、何回までOK?」


吉川 「なにがですか?」


藤村 「当てるの。狙ってる相手。2回まで間違ってもいいってことにしてくれない?」


吉川 「もうズンズン凄腕度が落ちてます。こういうのは一発でやるからこそ意味があるんですよ」


藤村 「もういいよ。無理無理。別に凄腕なんかじゃないし。ただ仕事をこなしてたら周りが言い出しただけだから」


吉川 「あ、今の凄腕アリ!」


藤村 「今のでアリなの? もうわかんないな。今のは諦めて言ったのよ?」


吉川 「そういう態度こそが凄腕っぽいんですよ」


藤村 「あ、そうか。つまり変にこだわったりしてない感じ?」


吉川 「そうですね」


藤村 「ちなみに朝はパンでもごはんでもどっちでもいいぜ?」


吉川 「あー、落ちました。凄腕じゃないです」


藤村 「落ちたの? こだわらない方がいいって言ったじゃん」


吉川 「なんか必要以上に自分をアピールしてない感じが良かったんですよ。パンとかごはんとか、別に知りたくもないこと教えてくる感じが凄腕じゃない」


藤村 「難しいなぁ。謙遜とも違うし、ちなみに江戸川区の凄腕協会に入らないかって話は来てるんだけど?」


吉川 「それはもうダメです。一番ダメな奴だ。凄腕協会に入っちゃう凄腕はいないんですよ」


藤村 「やっぱり? 俺もちょっとどうかなと思ったんだけど、協会の方から仕事を斡旋してくれることもあるっていうし、それに理事待遇だっていうから」


吉川 「絶対ダメです。というか、その協会はなんなの? 詐欺なんじゃないですか?」


藤村 「本当? 一応知り合いの名前出されて、そこから紹介受けたって言ってたし」


吉川 「ちょっと怪しいですね」


藤村 「やっぱり?」


吉川 「気をつけた方がいいです。凄腕の人は引く手あまたですから。特に最近はそういうの多いらしいですよ。WGAAならいざ知らず」


藤村 「なんですか? WGAAって?」


吉川 「おや? ご存知ない? ワールド・グレート・アームズ・アソシエーション。世界中の凄腕が集まる組織ですよ」


藤村 「全然知らない!」


吉川 「そこに入れば言うまでもなく凄腕なんですが。ちょうどパンフレットを一枚持ってたな。ただそこは紹介が必要なんですよ」


藤村 「やっぱり凄腕になるには難しいなぁ」


吉川 「なんとか私が紹介できるかも知れません。ただ紹介料の方が少しかかりますけど……」


藤村 「断ることできないなぁ」



暗転

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