包装

吉川 「プレゼント用に包んでください」


良子 「かしこまりました。包み紙の柄はどういたしましょう? カラフルなものとシックなもの、あと一回失敗しちゃってシワがついてるのもございますが」


吉川 「失敗しちゃったやつは選ばないでしょ。カラフルな方で」


良子 「シワの部分が味になって意外といいかも知れませんよ?」


吉川 「食い下がらないでよ。一回失敗しちゃった包装紙は捨てろよ」


良子 「かしこまりました。差し支えなければお相手はどんな方でしょう?」


吉川 「はぁ、恋人ですけど」


良子 「ブスの?」


吉川 「失礼だな。たとえブスだったとしても他人に言われたくないよ」


良子 「違います違います、性格がという意味で」


吉川 「どっちにしろダメだろ。全然フォローになってないよ。全ダメージ素通りだよ」


良子 「でしたら、こちらの一回失敗しちゃったやつでも大丈夫だと思いますが?」


吉川 「なんでそれをお前が決めるんだよ! 嫌だって言ってるだろ」


良子 「かしこまりましたー。包装の感じはグチャッとした感じにもできますが?」


吉川 「しないでよ。なんでわざわざグチャッとした感じにするのよ」


良子 「味がでますねー」


吉川 「お前が出そうと思ってる味、ろくなもんじゃないからな。無い方がいい。無味を希望する」


良子 「左様ですか。こちらリボンの方も選べますがどうしますか?」


吉川 「どれでもいいですけど」


良子 「そうですね。こちらの赤い方がやや臭くないですね」


吉川 「やや臭くないってどういうこと? 全部臭いの?」


良子 「臭いは臭いです」


吉川 「じゃつけなくていいよ。つけるメリット1個もないだろ」


良子 「リボンはなしで。包装の方もなくていいですか?」


吉川 「包装はしろよ! プレゼント用でって頼んだだろ」


良子 「面倒くさいなぁって私が思っちゃいますけどよろしいですか?」


吉川 「知らないよ! お前の仕事だろ。そもそも思っちゃうなよ。仕事なんだから!」


良子 「早く休憩行きたいなって思っちゃいますけど?」


吉川 「思っててもいいから口にだすなよ。こっちの責任みたいに言うな」


良子 「ちょっとお客様、ここを抑えててもらえますかね?」


吉川 「こういうのテキパキと一人でやるんじゃないの? 苦手なの?」


良子 「いや、大丈夫です。得意な気はしてます」


吉川 「気ってなんだよ。気じゃなくて技術で応えてくれよ」


良子 「はい。なんとかできました」


吉川 「できてないよ。こっちガバガバじゃん」


良子 「あー、それは、あえてですね」


吉川 「あえてじゃないだろ。なんであえてガバガバにするんだよ」


良子 「ご存知ありません? 最近は大きめのサイズをざっくりと着るのが流行ってるんですよ」


吉川 「服だろ? ファッションだろそれ。包装はピタッとしてくれよ」


良子 「全然問題ないと思いますよ?」


吉川 「あるんだよ。客があるって言ってるんだよ」


良子 「このくらいの感じが恋人さんにはお似合いだと思います」


吉川 「お前チョコチョコ俺の恋人をディスってくるな。なんなんだよ」


良子 「違います違います。お客様程度の方なら恋人さんもたかが知れてるだろうなと思っただけで。全然変な意味じゃないです」


吉川 「変な意味しかないだろ! 俺を痛烈にディスってるじゃねえか」


良子 「これはこういう形で完璧な包装なんで」


吉川 「いや、失敗してるだろ?」


良子 「まぁ、してるっちゃしてますけど。それも含めて作品なんで」


吉川 「作品!? お前の作品はいらないんだよ。俺のプレゼントに勝手に感性をチョイ足しするんじゃないよ」


良子 「でも私に包装を頼んだのはお客様ですし、こうなることがわかっていながら賭けたお客様の責任では?」


吉川 「賭けなの? サービスじゃないの?」


良子 「ちょっと今回は分の悪い賭けでしたね」


吉川 「そんなシステムなのかよ。一か八かだと知ってたら頼まなかったよ」


良子 「ふふふ、ザマァ無いですね」


吉川 「お前が言うなよ。なんなんだよ、包装が下手なのはしょうがないとしても口が悪すぎるだろ!」


良子 「これでもオブラートに包んで言ってるんですが」


吉川 「包むのが全部下手!」



暗転

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