イマジナリーフレンド

藤村 「もうわかってるんだろ? 俺はこの世には存在しない。お前のイマジナリーフレンドなんだ」


吉川 「そ、そんな!」


藤村 「いつか別れなければならない。それが今なんだ」


吉川 「なんで今なんだよ! これからお会計っていうタイミングで」


藤村 「これからは俺がいなくても一人でやっていくんだぞ」


吉川 「待ってよ。そんなの信じられないよ。だったら! だったらその結構飲み食いした分はなんなの?」


藤村 「心にも栄養は必要なんだ」


吉川 「アルコールもいってるよね?」


藤村 「イマジナリーガソリンだ」


吉川 「初めて聞いたんだけど、そんな言葉」


藤村 「残念だが、俺はもう帰らなければならないんだ」


吉川 「帰るってどこへ?」


藤村 「イマジナリーアパート。鷺沼の」


吉川 「鷺沼なの? ボクのイマジナリーは」


藤村 「イマジナリー鷺沼」


吉川 「それボクとは関係のないイマジナリーじゃない? 行ったことないよ。鷺沼は」


藤村 「夢と魔法の王国ディズニーランドみたいなもんだ。イマジナリーびっくりドンキーもある」


吉川 「今一つイマジナリーな感じがしないんだけど」


藤村 「もう行かなければ。イマジナリー終電が近い」


吉川 「イマジナリーならそういうの上手いことできないの?」


藤村 「イマジナリーっていうのはそういうもんじゃないんだよ」


吉川 「それはこっちのセリフだと思うんだけど」


藤村 「じゃ、また今度な。暇ジナリーな時に連絡するわ」


吉川 「暇ジナリーもあるの? そのジナリーはなんなの?」


藤村 「そういうのはイマジナリー諸法度で教えられないことになってるから」


吉川 「イマジナリー諸法度。えらい和風な決まりがあるんだな」


藤村 「俺がいなくても、お前なら一人でやっていけるさ」


吉川 「あと会計だけなんだけど。それはしてってくれない?」


藤村 「あぁ、もう消えかかってる……」


吉川 「消えちゃうのか?」


藤村 「イマジナリースマホの充電が」


吉川 「しとけよ。たっぷりめに充電しとけよ。イマジナリー電力を。金払いたくないだけじゃないの?」


藤村 「悲しいな。イマジナリーフレンドに対してイマジナリー猜疑心を抱くなんて」


吉川 「俺の猜疑心はイマジナリーじゃないよ。だいたいお前に金貸してたよね。3万」


藤村 「イマジナリー3万のことか?」


吉川 「イマジナリーじゃねぇよ。現ナマだよ」


藤村 「俺はお前のイマジナリーフレンドだから、俺に金を貸したということはお前の心の中で無駄遣いしたことを正当化するために『俺に金を貸した』とすり替えられてるんだ」


吉川 「いや、貸したよ」


藤村 「その話はまた今度にしようか」


吉川 「なんではぐらかしてるんだよ。もう言い訳すらできなくなってるじゃん」


藤村 「マジであの、イマジナリー田園都市線がヤバイので」


吉川 「なんなんだよ。もういいよ。ちゃんとメモっておくから今度返せよ」


藤村 「あとこれ食べきれなかった分、包んでもらえないかな」


吉川 「急いでるんじゃないのかよ。持ち帰るの? イマジナリー鷺沼に? それがイマジナリーのすること?」


藤村 「結構今月厳しくて」


吉川 「いじましい……」



暗転

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