香水

藤村 「お客様のイメージに合わせて香りを調合させていただいております」


吉川 「じゃ、ボクのオリジナルの香水っていうのも作れるんですか?」


藤村 「もちろんです。簡単なアンケートの方に答えていただければ、まさにお客様のイメージの香水が出来上がります」


吉川 「やります。アンケート」


藤村 「ではこちらのアンケート、ジャンルのほうが8つに分かれていまして、それぞれ90分の制限時間でお答えください。一日目は4ジャンル、そして2日目の4ジャンルが終わった後に口頭での質疑応答になります」


吉川 「受験なの? 2日がかりで? 私のパーソナリティそこまで時間かけて語ることなにもないよ」


藤村 「そうですか。お忙しいお客様ためにはパターンオーダーのような、既存の香りを組み合わせるというのもあるのですが」


吉川 「そっちでいいです。さすがに2日は。面接みたいのまであるし」


藤村 「まず香水の基本ですが、時間とともに香りが変化していくとお考えください。初めにトップノートが香り、そしてミドルノート、最後にラストノートが香るようになります」


吉川 「そういうものなんだ。じゃ、普通に試し嗅ぎしても全部わかるわけじゃないんですね」


藤村 「さようでございますね。つけた後に30分ほどお待ちいただければミドルノートが香ってまいります」


吉川 「知ると楽しくなりますね。試しにじゃあどんな組み合わせとかいいんでしょうね」


藤村 「そうですね、お客様の本日の装いなどを見ますと、こんな感じではどうでしょう?」


吉川 「あっ! なんか嗅いだことあるかも。なんだっけこの匂い。知ってる」


藤村 「こちらトップノートがチョレギサラダのドレッシングの香りになっております」


吉川 「ドレッシング! そうだ。美味しそうな匂い。え? 香水ってそういうのもあるの?」


藤村 「この世の中にある香りはほとんど再現できますね」


吉川 「へぇ、ドレッシングの香りって意外すぎたわ」


藤村 「そしてミドルノートが焼肉のタレの香り、ラストノートにバニラアイスの香りとなっております」


吉川 「焼肉屋の匂い! しかもコースで! なんで? なんで焼肉屋のコースを身にまとって生活しなきゃいけないの?」


藤村 「お嫌いですか?」


吉川 「いや、焼肉は好きだけどさ。食べるのが好きなだけでその香りを纏いたいと思ったことないよ」


藤村 「でもこちらの香り、ご一緒にいる方にも喜ばれるんですよ」


吉川 「美味しそうな匂いではあるからね。他にないの?」


藤村 「ではこちらなどいかがでしょう?」


吉川 「なんだろ、煙いというか燻製っぽい香り?」


藤村 「こちらトップノートがうなぎを焼いた香り、ミドルノートがうなぎのタレの香り、ラストノートが肝吸いのかおりとなっております」


吉川 「うなぎ屋のフルコース! なんで美味しい系ばっかりいくんだよ」


藤村 「こうするともっと香り立ちます」


吉川 「うちわでバタバタ扇ぐな! 老舗の鰻屋みたいなことしやがって」


藤村 「お気に召しませんか?」


吉川 「すると思った? うなぎ屋で。食べ物系はやめてほしいです」


藤村 「ではこちらなどいかがでしょう?」


吉川 「あ、爽やかな香り。これ好きです」


藤村 「こちらはモヒートの香りですね。ラムを使ったカクテルで、ライムやミントなど爽やかな香りをつけてます」


吉川 「いいじゃないですか。これいいです」


藤村 「トップノートがモヒートの香りになりまして、ミドルノートが満員電車の香り、ラストノートがゲロの香りとなっております」


吉川 「っざけんなよ! なんだよ、ゲロの香りって。酔って吐くところまで演出するなよ」


藤村 「お気に召しませんか?」


吉川 「逆にゲロの香りをお気に召すといった人、一人でもいるの?」


藤村 「では香水ではなく香木などいかがでしょう? こちらは変化はありませんがゆったりと香り心をリラックスさせてくれます」


吉川 「へぇ、なんて木ですか?」


藤村 「沙羅の木ですね。沙羅双樹の花の色という平家物語はご存知ですか?」


吉川 「聞いたことあります。こんな香りなんだ」


藤村 「お客様にピッタリでございますよ」


吉川 「意外といいですね。沙羅ねぇ」


藤村 「ええ、大変しゃら臭くございます」


吉川 「嫌味がきつい!」



暗転

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