だるまさんがころんだ

吉川 「あの、ここって……」


藤村 「どうもいらっしゃい。初めての方ですか?」


吉川 「はい」


藤村 「こちらは『スポーツだるまさんがころんだ』をやっております」


吉川 「スポーツだるまさんがころんだ」


藤村 「スポーツチャンバラやスポーツ雪合戦のように、今まで地域ルールで行われていただるまさんがころんだを体系化してルールを明確にしたものです」


吉川 「なるほど、そういうのがあるんですね」


藤村 「まずディフェンシブコーチが『だるまさんがころんだ』と発声します」


吉川 「ディフェンシブコーチって言うんだ。なんか格好いいな」


藤村 「その発声中はディフェンシブコーチが後ろを向いていますので、その間に烏合の衆たちはディフェンシブコーチに近づきます」


吉川 「烏合の衆? こっちの呼び方はなんか他にないんですか? オフェンスとか」


藤村 「烏合の衆です。衆愚。自ら考えることをせずにただ求めて縋り付くしか能のないクズども」


吉川 「急に政治色が強い! そんな遊びなの?」


藤村 「現代社会を風刺したものになってます」


吉川 「楽しい競技って感じの導入だったのに」


藤村 「そして支配者側は発声が終わるとともに振り返り、挙動の怪しい者を吊し上げて幽閉します」


吉川 「支配者になってる。ディフェンシブコーチじゃなかったの?」


藤村 「それはジュニアルールですね」


吉川 「だったらジュニアルールでやってよ。アダルトルールは風刺がきつすぎてクラクラするよ」


藤村 「でもお客さんは大人だから……」


吉川 「大人はみんなその風刺に参加しなきゃいけないの? なんか政治活動みたいで関わりたくないんだけど」


藤村 「でもジュニアルールだとマイルドになりすぎて一番楽しい公開処刑のくだりが省略されちゃうんですけど」


吉川 「なんだよ公開処刑って。それを楽しいと思う感覚のほうがヤバイよ」


藤村 「でもお客さん、このご時世こういったレジャーを隠れ蓑にしないと公開処刑の一つもできないんですよ」


吉川 「したいと思ったことないよ。なんでとっておきのエンタメ体験みたいな勧め方してるんだよ」


藤村 「多様性の時代ですからそういう考えも尊重することにします」


吉川 「なんでこっちがマイノリティみたいな扱いになってるんだ。誰だって嫌だろ」


藤村 「ディフェンシブコーチが見ている間は一切動いてはいけません。もし生きているのが見つかったらとどめを刺されます」


吉川 「死んだふりをするの? 死んだふりをしながら徐々に近づいていくんだ」


藤村 「そして距離を詰めて最終的には暗殺に及びます」


吉川 「もう『だるまさんがころんだ』という牧歌的な言葉が全く当てはまってない」


藤村 「そうなんですよ。競技名も本当なら『衆愚狩り』にした方がいいと思うんですけど、それだと知らない人はとっつき難いので」


吉川 「その名前を聞いてとっついてきた人は十分注意した方がいい人物だよ」


藤村 「しかしこうして遊びの中でいろいろなことを学んでいくのはいいことだと思いますよ」


吉川 「どうだろ。知らなくてもいいことってのもあるだろうからなぁ。それに『だるまさんがころんだ』って名前も地方によって違うらしいよ『坊さんが屁をこいた』とか『インディアンのふんどし』とかもあるみたい」


藤村 「え? 今なんて?」


吉川 「インディアンのふんどし?」


藤村 「なぁんだ。お客さんも人が悪い。合言葉知ってるんじゃないですか。でしたら最初から特別コースをオススメしましたのに。楽しいですよぉ、インディアン版」


吉川 「絶対ろくなもんじゃないだろっ!」



暗転

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