成立年

藤村 「日々遊惰に時を過ごしているといつの間にか重要なことを見逃してしまうことがある。我々は襟を正さなければならない」


吉川 「急にどうした?」


藤村 「昔、鎌倉幕府の成立を年号で覚えたよね」


吉川 「いい国作ろう鎌倉幕府だろ? 1192年」


藤村 「近年の研究では1192年と言い切ることはできないらしい」


吉川 「じゃ、いつなの?」


藤村 「それも明確なことは言えず、気づいたら鎌倉ってたらしい」


吉川 「気づいたら暗くなってたのニュアンスで言うなよ」


藤村 「ただこれは鎌倉時代の人のせいとも言い切れない。我々も見逃してるんだ、成立年を」


吉川 「最近のこと? 調べればわかるんじゃない?」


藤村 「VR元年だよ」


吉川 「VR元年」


藤村 「調べによるとだいたい2016年から2020年くらいまでが元年と言われてる」


吉川 「元年が4年なの? 気の長いスパンの暦だね」


藤村 「それぞれ主張が違うんだよ。ただそれぞれに言い分もある。これは我々の子孫たちが年号を覚える時に難儀するぞ? 匂う色気のVR元年2016年かも知れないし、仁王いいなとVR元年2017年かもしれない。はたまた臭う嫌なVR元年2018年もありうるし、無礼一休VR元年2019年というのもある。さらには詰まる詰まるとVR元年2020年もあるわけだ」


吉川 「全部考えたの? その語呂合わせは」


藤村 「これはあくまで仮。本当に決まったらもうちょっと韻とかを踏んで考えるから」


吉川 「そんな使命に燃えてる人がいるなんて知らなかったよ」


藤村 「VR元年だけじゃない。我々には当たり前のように通り過ぎているけど、実際にどのタイミングが成立年かと言われるとなかなかピンポイントで答えづらいだろ?」


吉川 「確かにVR元年みたいな事件性もないものだとここと言いづらいかな」


藤村 「タピオカブームはどうだった? あれはいつだ?」


吉川 「えっと、ちょっと前だよね。2019か2020あたり?」


藤村 「感度の良い人は2018年くらいからいってたよ。これも未来の子どもたちになんと伝えればいいのやら」


吉川 「年号覚える必要ある? タピオカブームの成立年が試験に出ることはないと思うよ」


藤村 「未来は何が起こるかわからないぞ」


吉川 「そうだけど、もうちょっと他に覚えるトピックあるだろ。激動の時代だよ」


藤村 「しかしこうして伝えておかないとタピオカブームがあったことすら消えていってしまうかもしれない。我々はこの時代に生きたものとして語り部にならなければならないんだよ」


吉川 「無駄に使命感があるんだよなぁ」


藤村 「そしてこれも忘れちゃならないジャッキー・チェンブーム」


吉川 「あった? それ最近のこと?」


藤村 「最近も最近。この間、久しぶりに蛇拳を見直したらやっぱり面白くてさー。やっぱり色あせないねぇ」


吉川 「お前の中のブームじゃねーか。知らねぇよ」


藤村 「ただジャッキーのことはブームじゃなくても好きだし、新作が公開されたら見に行くしいつがブームの起点になるかというと難しいものがあるんだよね」


吉川 「それこそ年号を明確にしてどうするんだよ」


藤村 「未来のキッズたちが……」


吉川 「未来のキッズもなんでお前の個人的なブームの年を覚えさせられなきゃいけないんだ」


藤村 「事あるごとにジャッキーはいいぞと伝えておいたほうがいいと思うんだよ。未来はどうなってるかわからないし」


吉川 「伝えるのは別にいいけど、子供が直でジャッキーに思いを馳せるようにしろよ。なんで一旦お前のメモリーを介してジャッキーに触れなきゃいけないんだ」


藤村 「でも未来には俺ブームも来るかもしれないから」


吉川 「それこそ知らないよ。来たからなんなんだよ」


藤村 「俺ブームの折には、俺が好きだった映画とかをリバイバルして欲しい」


吉川 「偉人なの? まだ何も成し遂げてないのに、偉人になる予定なの?」


藤村 「ありえない話ではないからね」


吉川 「相当ありえないと思うけどな」


藤村 「あと年といえばこれもちょっと曖昧なんだけど」


吉川 「今度は何? 何元年?」


藤村 「前に免許更新したの何年前だっけ?」


吉川 「確認すればいいだろ。それは成立年が曖昧なんじゃなくてただの加齢による物忘れだろ」



暗転

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