就職面接

藤村 「男は度胸、女は愛嬌といいますし、度胸だったら誰にも負けません!」


吉川 「度胸ねぇ。なんというか古いよね。時代にあってないよ」


藤村 「そんなことはありません。度胸さえあれば大概のことは乗り越えられます!」


吉川 「うちは広告とかを主体としてやってるんで、時代の見極めっていうのが大事なんだよ。男は女はと決めつけるようなのは今の時代一番やっちゃいけない。残念ながら今回は縁がなかったということで」


藤村 「人間は度胸、ゴリラは愛嬌ならよろしいですか?」


吉川 「よろしいですかってよろしくないよ。確かにゴリラからクレームが入ることはないだろうけど。そういう問題じゃないよね」


藤村 「動物は度胸、植物は愛嬌にします」


吉川 「どんどん度胸を内包する存在が大きくなってくるな。植物も花とかは愛くるしいだろうけど、気持ち悪いのも多いし」


藤村 「生物は度胸、死体は愛嬌ならどうでしょう」


吉川 「度胸の範囲大きくなったなぁ。だからそういうことじゃないんだよ。なにかに決めつけるということがよくない。それに死者を冒涜してるみたいで余計に炎上するよ」


藤村 「度胸があるので炎上してもビクともしません」


吉川 「キミがビクともしなくてもうちの会社がビクるんだよ。難しい時代なんだから」


藤村 「そうやって時代に怯えてなにもできずに縮こまってしまう。そんな時に必要なものこそ度胸じゃないですか?」


吉川 「度胸を推すなぁ。キミは度胸一本槍で就職できると思ってるの? 他にアピールポイントはないの?」


藤村 「あとは二の腕のここの所がすごいプニプニして触ると気持ちいいと言われます」


吉川 「二本目の槍がそれ? 度胸とプニプニで就職面接に挑んでくるやつ初めてだよ」


藤村 「それも度胸があるからできるのだと思います」


吉川 「確かに度胸は買うよ。ただ度胸というのも根拠が無いというか、数値化できないものでもあるからね。客観性がないものはチームにとっても難しいんだよ」


藤村 「できると思います」


吉川 「できるの?」


藤村 「なにか怖いことを言ってください。ビクともしませんから」


吉川 「そんなこと急に言われたって。えーとじゃぁ、眼球にこのボールペンを……」


藤村 「ぎゃー! やめてー!」


吉川 「なにそれ、全然弱いじゃん」


藤村 「それは怖いことじゃなくて痛いことでしょ! パワハラ受けたって就活サイトに書き込みますよ?」


吉川 「理不尽だな。言えって言われたから言ったのに」


藤村 「もうそれはいいです。そういうのじゃないから。度胸の良さを全く理解してないので」


吉川 「度胸、あるの? 本当に」


藤村 「ありますよ。見てください。この手。あの指を広げてその間をナイフでカツカツ順番に刺してくやつを何度も乗り越えてきた強靭な手です」


吉川 「それがわが社に対してどんなメリットがあるのよ」


藤村 「ないですけど。でも例えば競合他社がものすごい素晴らしいプレゼンをしたところで全然気になりません。ノーダメージ」


吉川 「キミのノーダメージは関係ないんだよ。社はダメージ受けてるんだから」


藤村 「結果的に他社に負けてもまったく気に病みません。美味しくご飯が食べられます」


吉川 「お前の事情は知らないんだよ。会社にとって役立ってくれよ。そもそもなんでうちの会社を受けたんだよ」


藤村 「なぜか心が惹かれたんです」


吉川 「それも曖昧だなぁ。うちは広告の会社だから。時代に敏感になるというのはとても大事なことなんですよ。この時代を読み、そしてさら先の時代の進むべき道を指し示す。広告というのはそういった羅針盤の役割があると思ってます。なので打たれ強さや鈍感さをアピールされても困るんですよ」


藤村 「なるほど。時代の羅針盤ですか。つまり磁石?」


吉川 「そうですね」


藤村 「だから惹かれたのかなぁ。よく言われるんですよ。鉄の心臓だって」



暗転

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