大怪獣

教授 「恐ろしい! これは予兆だ。目覚めてしまうぞ、あの伝説に謳われた大怪獣が」


吉川 「本当ですか、教授?」


教授 「もはや一刻の猶予もないだろう。神話に残されているように人類は再び未曾有の大破壊に見舞われる」


吉川 「大怪獣が!」


教授 「そう。大怪獣チンホが!」


吉川 「チンホ?」


教授 「そうだ。恐ろしい。大怪獣チンホ!」


吉川 「そんな名前なんですか?」


教授 「研究者ならこの名を聞けば誰もが震え上がる」


吉川 「チンホを?」


教授 「なにか不満な点でも?」


吉川 「恐ろしい大怪獣ですよね?」


教授 「そうだ。想像するだけでおしっこ漏れそうになる」


吉川 「チンホが?」


教授 「なんか含むところがあるのか? 言いたいことがあるなら言い給え」


吉川 「だって。恐ろしい怪獣の名前じゃないでしょ。もっと濁音とかじゃないの、普通」


教授 「そんなこと言ったって文献にそう記されているんだからしょうがないだろ」


吉川 「本当にそう記されてるの?」


教授 「私の研究をバカにするのか? チンホのことなら誰よりも知っている」


吉川 「チンホを?」


教授 「完全にバカにしてるだろ。なんだ、その半笑いは」


吉川 「まぁ古代は現代とは感性が違うからしょうがないのかもしれませんが。だったら現代に相応しい名前をつけませんかね?」


教授 「古代の名前がわかりづらいために現代風に名前をつけられた生物がいなかったわけではないが。そんなことをしていいのだろうか」


吉川 「むしろここで教授が止めないと、世界中がチンホで混乱することになるんですよ?」


教授 「私的にはチンホで慣れ親しんできたから違和感はないのだが」


吉川 「みんなあります。聞いたら『え? チンホwww』って半笑いになります。いくら教授がその恐ろしさを説いたところでみんな半笑いですよ」


教授 「それは参ったな。一刻を争う時だ、そんなことで時間をロスして被害が増えても困る」


吉川 「だからなにか新しい名前を」


教授 「そう言われても。私はチンホでもう恐ろしいイメージ持ってるから何が悪いのかわからない」


吉川 「ホです。ホで終わる言葉に恐怖感はない。抜けちゃうから。もっと力を溜めるような文字で」


教授 「チンボ?」


吉川 「最悪ですね。下手すると放送禁止になります。それだけはダメです」


教授 「どうしろっていうのよ!」


吉川 「前の音にこだわらなくても全面的に変更しちゃっていいんじゃないですか? 力強い濁音とかで」


教授 「意味性が変わっちゃうもん。チンホだって由来が色々あるんだから」


吉川 「研究者はややこしいな。だったら特に名前を特定しないで大怪獣って呼べばいいんじゃないですか?」


教授 「大怪獣にも色々いるもん」


吉川 「そりゃゴリラにだって色々いるけどとりあえずゴリラって呼んでも間違いじゃないじゃないですか」


教授 「ゴリラと大怪獣を一緒にしないで!」


吉川 「名前はみんなから公募で集めるってのはどうです? とりあえず暫定で大怪獣って呼んでおいて」


教授 「ピンクピン太郎とかになったらどうするんだよ」


吉川 「もうそれはしょうがないですよ。教授も審査する側に入って自分の意見を言えばいい」


教授 「審査員になったら自分の送れないじゃん」


吉川 「思い浮かぶんなら今つけてくださいよ」


教授 「今は出ないけど、実物見たら出るかもしれないでしょ。ちょうどいいのが。誰よりも研究して知っているこの私がつける最適なのが!」


吉川 「面倒くせーな。公募の名前はだいたい同じのが何通も来るからそこに紛れ込ませればいいですよ」


教授 「チンホが一番いいのに」


吉川 「あ。なにか! なにか出てきます!」


教授 「あれだ! あの姿だ! あれがチンホ! いや、待て。すごいぞ。実物はあんなに毛が生えてるんだ!」


吉川 「あ、もういいです。描写は」


教授 「すごい毛が生えてるな、チンホ。見ろ、吉川くん! 小さい個体もいる。あれはチンホの子供だ。いうなればチn」


吉川 「わかってて言ってるだろ」



暗転

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