トロッコ問題

吉川 「トロッコ問題ってあるじゃんん?」


藤村 「お? エッチな話か?」


吉川 「なんで? トロッコだよ? あの、止められないトロッコの先に分岐があって片方には一人、もう片方には五人いて、あなたは切り替えることができますっていうの」


藤村 「聞いたことはある」


吉川 「あれについて考えてるんだけど、答えが出ないんだよ」


藤村 「置き石をすればいいんじゃない?」


吉川 「そういう頓知で解決みたいな話じゃない。どちらかを選ばなければならないの」


藤村 「普通どうせなら景気よくいっぱい轢きたいからな」


吉川 「殺人鬼なの? そういう考え方する人はじめてみた」


藤村 「一人だけ死ぬとさ、悲劇性が強すぎてなんか原因が全部こっちにあるみたいな感じしない? 五人も死ねば悲惨な事故だからうやむやになるでしょ」


吉川 「うやむやにする目的なの? そういう考えあるんだ」


藤村 「あー、でも一人を殺して責任を助かった五人になすりつけるっていう手もあるか」


吉川 「保身がすごいな。この状況で保身を考える?」


藤村 「だいたいそれって誰か見てるの?」


吉川 「詳しくは知らないけど、監視カメラの映像とかあるんじゃない?」


藤村 「じゃ、全員はダメか」


吉川 「全員を何しようとしたの? 見てなかったらどうしたの?」


藤村 「あくまでそういう方法もありうるっていうだけで」


吉川 「怖いなぁ。なにを企んでるんだよ。トロッコ問題自体は結構昔からあるから監視カメラとかないかもしれない。なにをやったか誰もわからないとしたら?」


藤村 「え? いいんですか?」


吉川 「なんでワクワク顔になってるの? チャンス到来みたいな話じゃないよ?」


藤村 「でもあれだよね? 自分が無実だったという証明は誰かがしてくれるんだよね?」


吉川 「なにをする気なの? トロッコ問題とは別の問題が発生してるよ」


藤村 「ただ誰も見てないんだったらわざわざトロッコを使わなくてもその辺の石を使ってもいいわけだよね?」


吉川 「石を使って何をする気なの!? 本質が全然ズレてる気がする」


藤村 「だってトロッコ問題というのは結果としては五人死にますがその過程であなたが関わりますって話でしょ?」


吉川 「五人は規定じゃないよ。一人の場合もあるから」


藤村 「まぁどちらにしろ死にますという話だ。それにあなたが関わらなきゃいけない。どういう形で関わりますか? という問い掛けなわけだ」


吉川 「なんか思っても見なかった方向からアプローチしてきたな」


藤村 「どうせだったら盛大にいきたいしさ」


吉川 「トロッコ問題の答えで『どうせだったら』からはじめるやつ絶対サイコパスだからね」


藤村 「そうなの? 絶対自分の罪にならないんだよ? ボーナスタイムなのに」


吉川 「ボーナスタイムの問題じゃないよ。どっちも選びたくないという問題だから。できればどっちも選びたいわーって考える人いないよ」


藤村 「そうなのか。みんな遠慮しがちなんだね」


吉川 「遠慮じゃないよ。人の命をなんだと思ってるんだ。さらに問題に注釈がついて答えづらくなるやつもあるんだよ。その五人は見知らぬ人で一人の方はボクだとする。それなら余計に悩むでしょ」


藤村 「いいんですか!?」


吉川 「その顔やめろ!」



暗転

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