モンスター新人

吉川 「いや、参ったな。私も今度の新人はモンスター新入社員だぞ、なんて言われてね。これは心してかからなきゃならないななんて思ってたんだけど」


モン 「はい」


吉川 「まさか文字通りのモンスターという意味だと思ってなかったから。こっちとしても対応がなかなか難しいんだけども。なんでうちの会社に来たの?」


モン 「なんか、一応モンスター枠で入社できたんで」


吉川 「あったんだ。そういう枠が、うちの会社。多様性を尊重するとは言ってたけど、思い切ったなぁ。ちなみに何のモンスターなの?」


モン 「一応ハーフなんすけど」


吉川 「あ、ハーフなのね。モンスターと人間とのハーフっていう感じなのかな?」


モン 「いえ。毛もじゃもじゃ人間とピーマン大嫌い人間のハーフです」


吉川 「あー。なるほどねー。そういうタイプのモンスターがいるわけか。あの、不勉強で申し訳ないんだけど、そのご両親のモンスターというのはモンスター界ではメジャーな部類なの?」


モン 「地域によりますね」


吉川 「あぁ、そっか。私の知ってるのは狼男とか吸血鬼とかそういうのだから」


モン 「ちょっとわかんないっすね。それって昔の? 昭和って時代のやつじゃないすか?」


吉川 「そうだね。世代によっても違いあるのか」


モン 「昔は色々いたらしいっすけどね。でも人間どもが迫害するからいなくなったらしいっすよ」


吉川 「それは悪いことしたね」


モン 「しょうがないっすよ。そういう時代だったんだから。人間は人間って言うだけで他の種よりも偉いって思いこんでた時代なんで」


吉川 「そうだよね。平等! どんな種族も! とくに同じ会社で働く仲間なんだから、そんなことを言ってられないものな」


モン 「でもまだあるっすよ。人間どもは。余裕で差別してくるっすから」


吉川 「私の目の黒いうちはそんなことは許さないよ」


モン 「あぁ……。そういう表現も気をつけたほうがいいっすよ。目が黒いのなんて人間でも一部じゃないですか。まるで特権みたいに言うのは」


吉川 「いや。そういう意味はなかったんだけど。そうか。そういうのも気をつけなきゃいけないのか。なんだか私のほうが教えられる立場だな。指導する立場として不甲斐ない」


モン 「お互い様ですよ。こっちも吉川さんみたいなモンスター上司だと気が楽ですから」


吉川 「ん? どういうこと? その、なにかハラスメント的なことをしてしまったかな? モンスター呼ばわりされるような」


モン 「なに言ってるんすか。吉川さんもハゲ人間でしょ?」


吉川 「んんんん? それは種族的な特徴を言ってるのかな? 私はモンスターじゃないよ?」


モン 「あ、すみません。ハゲ人間と人間のハーフでしたか?」


吉川 「んー!! 違うね! ハゲ人間じゃないんだよ。ハゲ人間の要素は全然入ってないのよ」


モン 「またまたー、そんなことないでしょ」


吉川 「謙遜ではないからね。その、私は人間人間だから。その要素は人間としての要素だからね」


モン 「え? じゃ、そのハゲはコスプレっすか? よくないっすよ。モンスターの特徴を一部だけ真似して面白がるの一番ダメな差別ですよ」


吉川 「んんん!!! 私のことはいいよ。うん。いい。一応今言われたのは全部水に流すから」


モン 「水に流すって、河童系っすか?」


吉川 「人間だから。わかるか? おい! 人間なんだよ!」


モン 「あー。すんません。なんか、そういうのあえてやってるのかと思っちゃって」


吉川 「あえてやらないよ! だいたい毛もじゃもじゃ人間ってなんだよ! ただの毛深い人とどう違うんだよ!」


モン 「あー、ダメっすよ。そういうモンスターのセンシティブなところを指摘するの」


吉川 「お前はどうなんだよ! 散々人のセンシティブをこねくり回して。もう俺のセンシティブはヒリヒリしちゃって血が出てるよ!」


モン 「すんません。人間のそういうのあんまりよくわかんなくて」


吉川 「そうだな。ちょっと勉強が必要だな。我が社で仕事をするからにはそういう常識の部分もきちんとしてもらわないと困るから」


モン 「うっす。気合入れてやるっす」


吉川 「結構先が思いやられるな。社長には挨拶したか?」


モン 「まだっす。社長ってどんな人っすか?」


吉川 「そうだなぁ、一言で言えば、仕事人間かな」



暗転

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