マカダミー主演男優賞

吉川 「こんにちは。日本の皆さん」


藤村 「どうも~、吉川さん。マカダミー主演男優賞受賞おめでとうございます」


吉川 「ありがとうございます」


藤村 「今回、日本人としては初、そして同時に気持ち悪いやつとしても初ということで大変話題になっておりますが」


吉川 「え? あ、はい。すみません。日本人のあとちょっと聞き取れなくて」


藤村 「気持ち悪いやつとしても初です。気持ちが悪い人」


吉川 「あ、聞こえたとおりだったんだ。それ誰が言ってるんですか? 気持ち悪いとか主観じゃないですか」


藤村 「私どもの方へも続々とそういった声が届いております」


吉川 「届いてるんだ。一気に嫌な気分になったな」


藤村 「そして受賞スピーチ、素晴らしかったです」


吉川 「ありがとうございます」


藤村 「特にあの、冒頭のところ。もう一度言っていただいてよろしいですか?」


吉川 「え? 今ですか? このノリで?」


藤村 「はい」


吉川 「いや、あれは会場だったからああいう感じのスピーチになったわけで。ここでもう一度と言われても……」


藤村 「では今回はまた違ったスピーチをしていただけるということで」


吉川 「そうじゃなくて。スピーチはあれで終わりでいいじゃないですか? 見たかったら録画したやつ流せばいいわけですよね?」


藤村 「もう一度言ってもらいたいなぁ。特に冒頭のところ」


吉川 「冒頭? 冒頭になんて言いましたかね? 流れで言ったのでちょっと記憶が」


藤村 「映画人として嬉しいことが3つというやつです」


吉川 「覚えてるじゃないですか。じゃ、言わなくてもいいですよね」


藤村 「もう一度言っていただきたいですよね。そういった声もね、私どものところに続々と集まってきてます」


吉川 「続々と何を送ってるの? 聞きたいの? 本当に?」


藤村 「もちろんです」


吉川 「え、じゃぁ。あの……。映画人になって嬉しいことを3つ上げろと言われればこう答えます。一つは、共に家庭を築きたいと思える素晴らしい女性と出会えたこと。そしてもう一つは、その元妻と離婚できたこと。そして最後に、この映画に携わることができたことです」


藤村 「吉川さん、それは前もって考えていたのでしょうか?」


吉川 「いいじゃないですか、そんなこと」


藤村 「もう少し詳しく伺ってもよろしいですか?」


吉川 「ダメです。聞かないでください」


藤村 「では吉川さんの弁護士の方にお話を伺ってもよろしいでしょうか?」


吉川 「なんでだよ! 今更ほじくり返すことでもないだろ! 執拗すぎるぞ」


藤村 「我々の方でもこのスピーチに対してアンケートを取らせていただきました。その結果によるとですね、よかったが2%、よくなかったがおよそ6倍の12%、どちらとも言えないが86%となってます」


吉川 「なんだよ、そのアンケート。そもそも6倍とかじゃなくほとんどどちらとも言ってねーじゃねーか。そんな内容のないアンケートわざわざ教えてくれなくていいんだよ」


藤村 「実際に会場で、あの錚々たるスターたちの前で恥をかいた時はどんなお気持ちでした?」


吉川 「恥をかいたって勝手に決めるなよ! そこそこウケてたよ」


藤村 「いえいえ、そんなことありませんよ」


吉川 「なに謙遜する感じで否定してんだよ!」


藤村 「中には賞を返上しろ、なんて声もありますが?」


吉川 「そこまでじゃないんだよ。自分では割といい感じのスピーチだと思ってるんだから」


藤村 「いやいや、とんでもないです」


吉川 「だからお前が勝手に謙遜するなよ! 俺が感じたことを言ってるんだからお前にどうこう言われる筋合いないんだよ」


藤村 「授賞式が終わってホテルに戻ってきたところで、やっぱりまだ実感がわかずになにかの間違いだったんじゃないかと思ってるでしょうが、なにか日本の皆さんに一言ありますでしょうか?」


吉川 「なんでそれをお前が決めるんだよ。間違いだったと思ってないよ。人の気持ちを勝手に深読みするのやめて」


藤村 「またこれから春の入学入社シーズンということでですね、スピーチとか失敗しそうな人に先輩としてアドバイスなどありますでしょうか?」


吉川 「先輩じゃねーし! 失敗してねーし!」


藤村 「では最後にですね。応援していたファンの方々に向けてなにかメッセージを吉川さんの弁護士の方、よろしいでしょうか?」


吉川 「お前ら何を応援してたんだよっ!」



暗転

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