上位者
吉川 「うちも人手不足だから来てくれるのはありがたいんだけど、一つ気になってね。この履歴書にある……上位者ってのは?」
上位 「あ、はい。それはそなたたち人間よりも上位の存在ということなんですけど」
吉川 「上位の存在? それは貴族とかそういう偉い立場にいるということ?」
上位 「あ、全然違います。そなたたち人間は宇宙の片鱗しか知らないじゃないですか?」
吉川 「ま、まぁ。そうだな。片鱗というのもちょっとよくわからないけど」
上位 「我々上位者はそのすべてを知る者なんです。過去も未来もどの次元も」
吉川 「そうですか。でもそれだと、なんでその上位者さんが、コンビニのバイトに応募してきたのかがよくわからなくて」
上位 「時給が良かったからですね」
吉川 「時給が。確かに人手不足なのでね、多めに提示させてもらいましたけど、上位者さんってのは時給で働くタイプなの?」
上位 「今、なかなか中途で正社員って難しいんですよ」
吉川 「そうだろうね。その事情はわかるよ。その事情はよくわかるんだけど、上位者さんも割とその世相に左右されるものなんですか?」
上位 「えー。そんな時代錯誤なタイプに見えます? 結構服とかも一応今シーズンのやつ取り入れてるんですけど」
吉川 「んんん、そうですね。全然おかしくは見えないです。ただおかしく見えなすぎて上位者さんにも見えないというか」
上位 「あ、上位者のこと知ってるんですか?」
吉川 「いや、知らないですけど。勝手なこっちのイメージで、上位者ってもっと違う感じかなぁって」
上位 「そういう偏見よくないですよ。そういうのが差別になりますからね。そなたら人類はその愚かな歴史を繰り返してきたわけですし」
吉川 「急にピリッとしたこと言いますね。はい。気をつけます」
上位 「あとコンビニ初めてなんで伺いたいんですが」
吉川 「はい。色々とサービスなんかは後で教えますよ」
上位 「いえ、その辺はすべてを知りうるので大丈夫なんですが」
吉川 「すべてを知りうってるんだ。宅急便の受付も」
上位 「むかつく客とかがきた場合は、世の理から抹消してしまっても構いませんかね?」
吉川 「え? あ? 世の理? 通報とかってこと?」
上位 「あ、違います。初めから存在しない感じに書き換えるやつなんですけど」
吉川 「それはあんまりよくないかな。暴力みたいなものだよね?」
上位 「暴力ともちょっと違って、その人が生まれてなかった世界線に移行する感じなんです。だから誰も傷つきません」
吉川 「そう。誰も傷つかないの。あんまりそういうケースは今までなかったんだけど、できればじゃあ世の理から抹消する前に一旦こっちに連絡くれますかね」
上位 「店長判断ってことですか?」
吉川 「そういわれると私が世の理から抹消する権限もってるみたいになっちゃうけど、一応ね、念のために連絡だけ」
上位 「わかりました。あと希望なんですが」
吉川 「はい。伺いましょう」
上位 「私、趣味がプロレス観戦なもので、好きな団体が興行する時はシフトに入れないことがあると思うんですけど」
吉川 「なるほど。趣味の優先はいいことですよ。その、疎くてよく知らないんだけどプロレスの興行ってのは日にちとか決まってるの?」
上位 「主に週末ですね」
吉川 「あー。週末かぁ。週末はシフト薄いんでできれば入ってもらいたいところではあるんですよね」
上位 「そうですか。困りましたね。では週末という概念を変えるという形ならどうですかね?」
吉川 「どういうこと?」
上位 「一週間を9日にして。今までと違う日を週末にすれば」
吉川 「できるの、そんなことが?」
上位 「あ。平気です。今しましょうか?」
吉川 「や、ちょっと待って! 今しないで! それは色々とまずいんじゃない?」
上位 「でも週末シフトに入れないと……」
吉川 「それやられちゃうと人類全体が結構困る気がするんだよね。割とみんな週の感覚が身についてるし」
上位 「でも初めからそうだったという認識になるので困らないと思いますよ?」
吉川 「それでもまずいですよ。一週間は7日ってことで我々はずーっとやってきたんですから。それが言ってみればたかがコンビニのバイトごときでですよ?」
上位 「それだってこの間、期間限定コラボが短すぎたから7日に替えただけですよ。それまでみんな週5日でやってたじゃないですか」
吉川 「はぁっ!?」
暗転
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