マッチ
藤村 「マッチいりませんか? マッチいりませんか?」
吉川 「え? マッチ売り? 本物を初めて見たよ」
藤村 「マッチいりませんか?」
吉川 「すみませーん、マッチ売りですか?」
藤村 「はい。そうですが、冷やかしでしたらぶち殺しますよ?」
吉川 「とんでもない好戦的なマッチ売りだな。あ、じゃあ試しに一つ買います」
藤村 「どうも。ではこちらのQRコードを読み込んでください」
吉川 「え? スマホ決済? そんな最新式なの? マッチなのに?」
藤村 「そうですね。うちは以前からこの方式でやらせてもらってます」
吉川 「決済方法をそうするなら、マッチ以外のものを売る方に向かえばよかったのに」
藤村 「ではこちらでプロフィールを打ち込んでもらって」
吉川 「プロフィールですか?」
藤村 「一応危険物ですから」
吉川 「あー。そういうものなのか。ライターならコンビニで買えるのに」
藤村 「なにか不満でも? やるんだったらこっちも殺す気でやりますけど?」
吉川 「いや、別に大丈夫です」
藤村 「あー。お客さんすごい。もう4人マッチしてます」
吉川 「4人? どういうこと?」
藤村 「大人気ですよ。やっぱり年収ですかね」
吉川 「え? これ。マッチ売りって?」
藤村 「マッチ
吉川 「最初からそういう言い方してました?」
藤村 「してました。生まれた時から」
吉川 「生まれた時のことは聞いてないです。知らないし」
藤村 「オギャーの替わりに『マッチ
吉川 「それは怖い。もう伝説の何かじゃん」
藤村 「いやぁ~、しかしモテモテですね。ひょっとしてプロの方?」
吉川 「違いますよ。プロなんてあるんですか?」
藤村 「結婚詐欺師とか」
吉川 「全然褒められてないじゃん。むしろ失礼だよ」
藤村 「こんなにモテる方初めて見ましたよ」
吉川 「そもそもなんでこんな街角でマッチングアプリ紹介してるんですか。ネットでやればいいじゃないですか」
藤村 「いやいや、ネットだとリテラシーの高い方が多くて、なかなかバカが引っかからないんですよ」
吉川 「見事に引っかかった私に対して悪びれずよく言えるな」
藤村 「違いますよ。バカって言うのはいい意味で。恋愛バカみたいなね」
吉川 「別にそんなにいい意味になってないけど?」
藤村 「その道一筋みたいな人をいうじゃないですか。空手バカとか、音楽バカとか、ただのバカとか」
吉川 「ただのバカは悪口だろ。どういうフォローが成立すると思ってたんだ」
藤村 「そういってる間に、もう10人とマッチングしてますよ。すごいなー」
吉川 「これ、マッチングするとどうなるの?」
藤村 「はい?」
吉川 「いや、だから。マッチングしたら」
藤村 「お客さん、私にそこまで言わせます?」
吉川 「だって知らないもの」
藤村 「私どもとしてもね、その……提供してるのはマッチングまでなんで、その後のこととかはあんまりおおっぴらにはね」
吉川 「でも全然やり方知らないんだもん」
藤村 「そうですね。よくは知りませんが、裏の小さい小屋の方に向かうお客さんは多いみたいですね」
吉川 「急にパチンコ屋みたいなシステムになったな。めちゃくちゃ怪しいじゃん」
藤村 「もしトラブルがあっても私どもの方としては関与してないということで」
吉川 「これ完全に詐欺じゃねーの? いくらなんでも怪しすぎるだろ」
藤村 「全然怪しくありません。ネットでも検索してみてください。『怪しくない』が上位に来ますから」
吉川 「SEOの効果じゃねーか。そもそも『怪しくない』なんてわざわざ検索する人、完全に身内だろ」
藤村 「いいですか? こっちはお客さんのプロフィール握ってるんですよ? いつでも炎上させられるんです」
吉川 「火付盗賊みたいなやつだな」
藤村 「マッチいりませんかー? よく燃えますよー」
吉川 「看板に偽りなしだったか」
暗転
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