乳首

女神 「私はこの世界を司る女神。あなたの質問に一つだけ答えましょう」


吉川 「本当ですか? では教えて欲しいんですが、神様って乳首あるんですか?」


女神 「どういうことですか? 比喩などではなく直接的な物言いをしてください」


吉川 「乳首、ついてます?」


女神 「たった一つだけ。質問に答えるんですよ。一つしかダメです。後で追加とかできません。よろしいですか?」


吉川 「ついてるんですか? 乳首」


女神 「意味わかってます? ワンチャンしかないんですよ? それに使ったらきっと後悔すると思いますけど」


吉川 「大丈夫です。どうなんでしょう、乳首」


女神 「例えば未来のことも答えることができます。あなたたちが知りうることのない未来のことも。たった一つだけ」


吉川 「乳首でお願いします」


女神 「とんでもない愚か者なのですか? それを知ってどうするのですか?」


吉川 「そうですね。神様ってのは我々人間とは違う繁殖というか、生まれ育ち方をすると思うんですよ。乳首っていうのは授乳の器官じゃないですか。乳首があるかどうかでそういったものを知ることができると思うのです」


女神 「なるほど。では神がどのように増えるかを知りたいということですね。お答えしましょう」


吉川 「いや、乳首のみで」


女神 「なんで!? ちょっと怖いですよ。なんでこだわってるの」


吉川 「知的好奇心がそうさせるのかな」


女神 「知的好奇心だったらもうちょっと広めの範囲で答えを知ったほうが良いと置いもいますよ。そこ限定だと知れる部分もたかが知れてるでしょ」


吉川 「そうですね。できれば数も教えてほしいんですけど、一つだけとなると有り無しで聞くしかないかと」


女神 「はっきり言いますけど、気持ち悪い!」


吉川 「ボクは気持ちいいです」


女神 「それ! その言い方も! セクハラですよ」


吉川 「いいえ。性的な感情は何一つありません。だって神様ですから。種族も違うし。例えば猫の乳首の数が6個から8個くらいで決まってるわけではないという情報を知ると感心するんですよ。そこに対してゲヘヘ、6個だって。えっろぉ! みたいな感情は一切ないですよ。ある方がおかしい」


女神 「なんかでも嫌なんですけど」


吉川 「セクハラと言われること自体が心外です。言ってみれば学術的好奇心ですから。神様を知りたいという」


女神 「カミハラですよ」


吉川 「あるんですか、そんなの? それを言ったら、明らかにパワーバランスが下の人間に対して一方的に感情を決めつけるあなたの対応がヒトハラじゃないですか?」


女神 「たまに返しが冴えてるのなんなの? それだけ頭回るんならもっと質問あるでしょ」


吉川 「……乳首で」


女神 「苦渋の決断みたいな顔するのやめてよ。なんでそんな重厚そうな雰囲気出せるの?」


吉川 「答えることができないというのならしかたがないのですが」


女神 「答えることができないというわけじゃないです。ただ、いいの? ひょっとしたら質問によっては人類全体に対して大きな福音をもたらすかも知れないんですよ? 未曾有の大災害とか、戦争とか、そういうものを回避できるかもしれない。あなたの質問一つによって」


吉川 「乳首はあるんですかね?」


女神 「その執着の根源は何? あるかないかで答えたとして、あったとして、もしくはなかったとして、あなたが得るものは何?」


吉川 「知りたいですか?」


女神 「だって明らかにおかしいんだもん」


吉川 「わかりました。いいんですね? 私にできるたった一つの質問がそれで」


女神 「はっ!? ひょっとしてこれまでの一連の流れは、女神である私と人間であるあなたの隔たりを超え、対等であると知らしめるためにしたのですか?」


吉川 「……」


女神 「確かに私はどこかで人間は愚かな生き物だと思いこんでいたかも知れません。ほんの短い時間しか生きることができず、世の理をすべて知ることもなく朽ちていく。そのような存在に神と同様の敬意を抱いていたとは言い難い。あなたのおかげで自らの驕りに気付かされました。ありがとう」


吉川 「で、乳首は?」


女神 「愚か!」



暗転

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