女神

吉川 「あぁっ! AirPodsが排水溝に落ちた!」


女神 「ホワンホワンホワンホワンホワワワ~ン」


吉川 「うわっ! 排水溝から謎の女性が現れた!」


女神 「……」


吉川 「……」


女神 「…………」


吉川 「…………」


女神 「………………」


吉川 「なんか言ってよ! 怖いよ!」


女神 「んあ? え? なに?」


吉川 「耳! つけてるでしょ。AirPods」


女神 「あぁ。はいはい。なんでしょう?」


吉川 「なんでしょうはこっちだよ。急に現れて、恐らくこの排水溝の女神だと思うんだけど」


女神 「そうです。あぁ、落とし物? でしたら遺失物扱いになるので下水道局に連絡していただいてですね」


吉川 「え? そういうのなの? そんなお役所仕事なの?」


女神 「そうです」


吉川 「あなたは何の役割なの?」


女神 「主にこういった手続きを周知するためにアナウンスしてます」


吉川 「あー。広報的な?」


女神 「そうです」


吉川 「思ってたのと全然違ったな。なんというか、直であなたに助けてもらう感じのことはないの?」


女神 「闇取引ですか?」


吉川 「闇取引っていうとちょっと外聞が悪いんだけど、あの、直で」


女神 「できないことはないです。ただなにかあったとしても自己責任ということになりますが」


吉川 「思ってたのと毎回違うんだよなぁ。基本そっちが勝手に出てきて『落としたのはこれですか?』みたいな人間性を試されるチャレンジするものじゃないんですか?」


女神 「そのサービスでしたら平成30年で終了してますね。コンプライアンス的に問題が多くて」


吉川 「そういうのあるの。排水溝の女神という立場にも」


女神 「私もね、伝統的にやってきたことだから正直やめたくなかったんですけどね。なので闇取引を持ちかけられるとちょっと心躍ります」


吉川 「あー、旧来のやり方が闇取引なんだ」


女神 「ただこれデータに残さない形になっちゃうので」


吉川 「まぁ、いいです。そもそも遺失物のデータに残ると思ってなかったからね、女神が出た時点で」


女神 「では改めて。あなたが落としたのは粘土の煙草の吸殻ですか? レジンの煙草の吸殻ですか?」


吉川 「あ。両方違います」


女神 「正直なあなたには粘土の煙草の吸殻とレジンの煙草の吸殻両方差し上げましょう」


吉川 「いらないです。私のじゃないんで」


女神 「そういう決まりになってるので」


吉川 「あ、そうなんですか? あの。粘土とレジンってのはなんでなんですか?」


女神 「景気のいい時は金だ銀だとやってたんですがね。さすがにいつまでもそう大盤振る舞いはできませんし」


吉川 「あー。冷静に考えればそうですね。わからなくもないですが、レジンと粘土かぁ」


女神 「粘土とレジンに代わってから格段に虚偽申請する人が減りましたね」


吉川 「そりゃそうですよね。嘘ついてまで粘土のが欲しいっていう人いないでしょ」


女神 「ではさようなら、正直な人」


吉川 「ちょっと待って下さい。違うんです。落としたのは煙草の吸殻じゃないんです」


女神 「ではこの粘土の枯れ葉ですか? それともレジンの枯れ葉ですか?」


吉川 「両方とも違います」


女神 「正直なあなたには粘土の枯れ葉とレジンの枯れ葉両方差し上げましょう」


吉川 「このやり取り毎回しなきゃダメなんですか? 本当にそれじゃないです。そもそも枯れ葉って人が落としたのじゃなくて勝手に落ちてるゴミみたいなものですよね」


女神 「こちらでは勝手にそういう判断するわけにはいかないんですよ」


吉川 「お役所仕事だから。そうじゃなくてAirPods」


女神 「……ないですね」


吉川 「なくないでしょ。さっきですよ。直近の」


女神 「なんのことだかわからないです」


吉川 「あなた、耳にしてましたよね。それですよ」


女神 「耳に? なにもしてないですけど?」


吉川 「さっきしてた。パクろうとしてる?」


女神 「ぁん? なんつった?」


吉川 「え。急にそんなオラついた感じになるの? 女神じゃないの」


女神 「私が盗ったと? こんな無礼なこと言われたの初めてです。なんの証拠があってそんなこと言うんですか?」


吉川 「ボクのスマホとペアリングされてるんですが」


女神 「たまたまです」


吉川 「たまたまってことはないでしょ。よくそれで言い逃れできると思ったな」


女神 「いいんですか? あなたが闇取引を持ちかけたことをおおっぴらにしますよ?」


吉川 「やり口が汚いな」


女神 「納得していただけてなによりです。それではさようなら正直な人」


吉川 「はぁ……。女神ってあんな感じなんだ。知らなかったなぁ」


女神 「ホワンホワンホワンホワンホワワワ~ン」


吉川 「また出てきた。なんだよ今度は」


女神 「あなたが落としたのはこの粘土の目からうろこですか? それともレジンの目からうろこですか?」


吉川 「落ちてねーよ!」



暗転

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