封印

術士 「ついに封印が解かれてしまったか……っ!」


吉川 「なんですって?」


術士 「もう終わりです。すべて終わりだ」


吉川 「なんとかならないんですか?」


術士 「なるけど、実費ですよ?」


吉川 「実費!? え、お金の問題なの?」


術士 「もちろん封印が解かれるというのは、それほど簡単なことじゃない。ただ今回に限っては実費でなんとかできる範囲ではある」


吉川 「なんか今回限りって、ちょっとお得感だしてません?」


術士 「別にこのまま終わりでも私は一向に構わんのだが。悲しいことだ」


吉川 「ちなみに実費というのはどれほどなんですか? 機関に掛け合えばなんとかなるかもしれません」


術士 「720円」


吉川 「安い! タクシーの初乗りより安い。え? それで解けた封印をなんとかできるんですか?」


術士 「そう簡単に言ってくれるけど、誰でもできるわけじゃないからね。まぁこれだけの規模となると完全には無理だろうがなんとかはなる」


吉川 「720円で」


術士 「なんか見下してる? 封印って大したことないんだって気になってない?」


吉川 「いや、ちょっと予想してたよりも大分安い扱いだったので」


術士 「なんかやだなぁ、そうやって値段で決めるの。さっきよりも心なしか雑に扱ってるし」


吉川 「そんなことないと思いますけど」


術士 「わかった。もうなんとかしない。お終い。これで終わりです」


吉川 「え? なにへそ曲げてるんですか。いいんですか? 封印解かれたままで」


術士 「だからダメだよ。お終いだっていってるじゃん」


吉川 「お終いって。具体的に何が?」


術士 「世界」


吉川 「世界が終わるの? 世界が終わるレベルのことが起こるわけですか? それを未然に防ぐことが今なら可能なんですよね?」


術士 「実費だよ?」


吉川 「720円で」


術士 「ほらー、なんかそこで扱いが軽くなってるじゃん」


吉川 「だって世界の値段が720円てことですよね?」


術士 「違うよ。あくまで封印の値段が720円」


吉川 「あ、はい。封印の値段が。なんかガムテープとかでいいんじゃないですか?」


術士 「封印なめてるだろ? なんだよ、ガムテープって」


吉川 「だって720円のアレだったら、テープでガチガチに固めておけばなんとかなるんじゃないんですか?」


術士 「そういうもんじゃないよ。720円は実費でかかるけれども、色々儀式とか精神的なものとか技術とかを注ぎ込んでやるんだよ」


吉川 「720円で?」


術士 「なんでお金の単位に執着するかな? 世界だよ? 世界がもう終わるっていうんだよ?」


吉川 「まぁ、それは困りますよ。それは困りますけど、720円でなんとかなるんっすよね?」


術士 「終わったらもう取り戻せないよ。世界だもん」


吉川 「世界ってなんすかね?」


術士 「今そんな哲学的な問をする? 封印解かれてるのに」


吉川 「だってたった720円でどうにかなっちゃうものに右往左往して」


術士 「わかった! 実費は720円だが、実際には手数料とか技術料とかそういうのが色々かかる」


吉川 「ですよね。さすがに720円てことはね。全部でいくらなんですかね?」


術士 「960円くらい?」


吉川 「手数料も安いな。ATMか。世界よ? 世界の値段よ?」


術士 「こっちが請求するのはあくまで封印の分だから」


吉川 「ガムテではなんとかできないんですよね?」


術士 「全然そういうのと違う。理屈が違う」


吉川 「じゃあちょっとやってもらいましょうかね。1000円しないなら」


術士 「なんか扱いが軽いんだよなー。言っておくけどものすごい大変な封印なんだよ?」


吉川 「わかってますって。待ってる間、飲み物買ってきていい?」


術士 「全然軽い」


吉川 「ちゃっちゃとやってくださいよ」


術士 「ちゃっちゃとはできないよ。大変な封印なんだから」


吉川 「そうなんすか。このテープとか剥がしてもOK?」


術士 「あーっ! それは最後の頼みの綱の!」


吉川 「あ、ごめんごめん」


術士 「もう終わりです」


吉川 「え?」


術士 「もう封印は完全に役立たずになりました」


吉川 「そうすか。でも10000円なら?」


術士 「億でも兆でもダメですよ。こうなってしまったら」


吉川 「……ど、どうしよう」


術士 「受け止めるだけです」


吉川 「とりあえずガムテ買ってきましょうか?」


術士 「だーかーらー!」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る