一休さん

一休 「慌てない慌てない」


吉川 「あっ! ひょっとして一休さん?」


一休 「そうです。拙僧が一休です」


吉川 「うわぁ。はじめまして。なんか、思ってたのと違うって言うか、迫力ある外見してますね」


一休 「顔怖いでしょ?」


吉川 「……いや、そんなことは」


一休 「素直が一番!」


吉川 「はい、怖いです」


一休 「そうなんだよ。拙僧、見た目が凶悪だからね。ドクロとかついてるし」


吉川 「そうなんだ。ところでなんか頓智言ってくださいよ」


一休 「あー、もうそういうのやめたから」


吉川 「やめたの!? 頓智を?」


一休 「あれはね、若気の至りだよ。まぁ若いころは粋がってるから、通るなって言われたら無理にでも通りたくなってね。ついたあだ名が『検問破りの一休』とか」


吉川 「そんなマッドマックスみたいなあだ名がついてたんだ」


一休 「今はもう通るなって言われたら素直に従いますよ」


吉川 「そうなんだぁ。頓智やめちゃったのか」


一休 「頓智なんてね、たいしたもんじゃないのよ。アレは大概勢い」


吉川 「勢い?」


一休 「だって、結局は屁理屈だもん」


吉川 「そうかもしれないけど」


一休 「橋の真ん中を渡ってまいりました! って言われてもさ。渡るなって言ってるんだから、もう駄目じゃん。何言ってるのお前? って感じだろ」


吉川 「いや、だからそれを説得力で」


一休 「説得力なんてないよ。まぁ、見た目が怖いからね、凄めば大概うやむやになる」


吉川 「え? そんなのなの?」


一休 「そうだよー。だって将軍様にさ『だったら、あんたが虎を出してよ』なんて言ったら、普通打首ですよ。問答無用で」


吉川 「問答無用じゃ頓智どころじゃないですね」


一休 「だから凄んでうやむやにしてるの」


吉川 「ちょっと夢が壊れた気がする」


一休 「だって頓智なんて、屁理屈、因縁、言いがかりとかそんなもんだよ?」


吉川 「もっと高尚な思考ゲームみたいなものだと思ってました」


一休 「困ったことに頓智やりはじめると相手の要求がどんどんエスカレートしてくるんだよねぇ」


吉川 「そうなんですか?」


一休 「将軍様だってさ、最初は普通の屏風の虎だったのに、もう四五回やり取りしたらなんか青と赤のフィルム貼ったメガネかけてたもん」


吉川 「うわぁ」


一休 「それで『一休、この屏風の虎が夜な夜な飛び出て暴れて困ってるのじゃ』って、まずメガネはずせよ。って話でしょ?」


吉川 「そうですね」


一休 「挙句の果ては『おかげで視力が下がってきたから頓智でなんとかしてくれ』とか言い出すし」


吉川 「なんとかしたんですか?」


一休 「したよ。レーシック」


吉川 「全然、頓智じゃないじゃないですか」


一休 「最初、ブルーベリーでなんとかしようとしたんだけどね。アレはあんまり効かないな」


吉川 「頓智っぽいエッセンスがまったく感じられない」


一休 「そんなのは、治ったあとにそれっぽいこと言っておけばいいんだよ。『手術で治したのがわかるとは、はじめから将軍様の目は曇ってなかったわけですな!』みたいなね」


吉川 「あ、上手いこと言った! 頓智だ!」


一休 「だからね、俺はもう頓智は引退したの。あとは若い者に任せるよ」


吉川 「だったら俺も一休さんの意志をついで頑張ります」


一休 「おう、老兵は去るのみだ。未来のあるものたちに道を譲るとするよ」


吉川 「がんばります!」


一休 「がんばれよぉ、じゃあな」


吉川 「さて、道を譲られたところで、目の前に渡るなと書いてある橋があるだけなんだけど……」



暗転

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