僧  「……カーッ! まだ邪念があるようですな」


吉川 「ご指導ありがとうございます」


僧  「……カーッ!」


吉川 「ありがとうございます」


僧  「まだまだ邪念があるじゃんね?」


吉川 「へ?」


僧  「カーッ! カーッ!」


吉川 「い、痛い。なんすか?」


僧  「リアクションがなってない」


吉川 「リアクション!? え? 何の修業?」


僧  「禅はすべてあるがままに。自もなく他もなく、ダジャレもあるがままに」


吉川 「あるがままの感じで流したつもりなんですが……」


僧  「カーッ! 全然ダメです。あるがままの心であればあれを聞いたら爆笑していたはず」


吉川 「……いいえ?」


僧  「していたはずです。インスタにあげたら50いいねは確実のダジャレでした」


吉川 「インスタしてるの? 禅僧が?」


僧  「インフルエン僧と呼ばれてます」


吉川 「急にありがたみがなくなったな」


僧  「それでは次のダジャレに参りましょう」


吉川 「いや、ダジャレを聞きに来たわけじゃないんですが」


僧  「お坊さんを見てボーッとしてしまいましたか?」


吉川 「しょうもな……」


僧  「カーッ!」


吉川 「痛いって! なんか警策が八つ当たりみたいになってる」


僧  「邪念があるから笑えないのです」


吉川 「そういうものじゃないでしょ。強制しないでくださいよ」


僧  「そのようなことでは悟りまでは遠い」


吉川 「なんなんですか? だいたい禅ってそういうもんじゃないでしょ。禅が悟りを目指して座るなんて世間一般で勘違いされてることですよ」


僧  「カーッ! 我が宗派ではそうなのです」


吉川 「そういえばここの宗派はなんなんですか?」


僧  「うちは代々ホンワカ宗ですぞ」


吉川 「なにそれ。聞いたことない」


僧  「禅でチルしようぜ、をスローガンに受け継がれてきました」


吉川 「チルって言ってたの? いつから? 割と最近使われてる言葉じゃないの?」


僧  「since令和2年」


吉川 「シンス!? お坊さんがシンスっていうの初めて聞いたんだけど。一昨年じゃねーか。新興宗教じゃん。どこが代々なんだよ」


僧  「2年の間に代表が5人も替わりまして」


吉川 「内情最悪じゃねーの。教えるどころの話じゃないだろ。自分たちがちゃんとしろよ」


僧  「カーッ!」


吉川 「痛いって。なんだよ!」


僧  「その通りです」


吉川 「正解ってこと? なにその警策。早押しボタンみたいな感じで使ってるの? だいたい新興宗教のくせにそういう形だけ真似してるのがよくないんだよ」


僧  「カーッ?」


吉川 「カーッ? じゃねーよ! 疑問形で人を叩くなよ。もっとしっかりした信念のもとに叩けよ」


僧  「ピーッ!」


吉川 「なんだよそれ! 放送禁止用語か? なんかヤバいこと言ったらそれ言って叩くのか?」


僧  「イェーィッ!」


吉川 「人を叩いておいて盛り上がるなよ。なにコール・アンド・レスポンスみたいにしてるの? 警策をマイクみたいにこっちに向けないでよ」


僧  「シーッ!」


吉川 「あ、なんか大きな声出してすみません」



暗転

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