達人

達人 「ホッホッホ。まるで隙だらけじゃのぉ」


吉川 「俺のどこが隙だらけだっていうんですか?」


達人 「ほれ、今の瞬間に四発入れられた」


吉川 「まさか!」


達人 「ほい。今そうしてる間に五発と投げキッスを入れられたぞい」


吉川 「投げキッスまで!?」


達人 「チュッといっといた」


吉川 「できることなら金輪際しないで欲しい」


達人 「はい、隙あり。今ので二発入ってるし隙がありすぎるから喫煙所に行ってIQOS吸おうと思っちゃった」


吉川 「そんなに隙あります? 目を離したとかの話じゃないじゃないですか。喫煙所に行ける?」


達人 「行こうと思っただけ。よくよく考えたら禁煙はじめたの忘れてたから」


吉川 「今の一瞬でそんな流れがあったの?」


達人 「そうそう。『あ、喫煙所行~こう♪ と思ったけど、禁煙中だったんだ。頭ポリポリ』っていうのが入ってる」


吉川 「頭ポリポリまで!?」


達人 「そう、一歩踏み出して、おっとっとって二歩下がったからね」


吉川 「さすがにそこまでは隙ないでしょ」


達人 「はい、今!」


吉川 「ありました? 今あったんですか?」


達人 「あったよー。今の間に出会い系アプリで15人にいいね送ったからね。しかも25歳以下のみ」


吉川 「人の隙の間に出会い系アプリでいいね送らないでくださいよ。だいたい25歳以下って自分何歳なんですか。身の程知らずですよ」


達人 「隙だらけのお前に言われたくないわい」


吉川 「隙の間といえどももうちょっと他にやることあるでしょうが」


達人 「あー! また隙があった。もう勘弁してよ」


吉川 「こっちのせい? 別に隙を見せようとして見せてるわけじゃないですけど?」


達人 「今の隙の間に富嶽三十六景のジグソーパズル作っちゃったよ。しかも16ピース」


吉川 「壮大な絵の割にはピース数が少ない! 対象年齢6歳以下のやつじゃん。1ピースがでかすぎるでしょ」


達人 「あ。また隙! 今の間に婚姻届に自分の分だけ名前を書いてはんこも押しちゃった」


吉川 「なんで? 誰と? それを受け取った俺はどう処理すればいいの? 破り捨てるだけだよ?」


達人 「さっきの投げキッスの伏線を回収する感じの隙だった」


吉川 「人の隙の間にドラマ展開をコツコツ進めないでくれる? こっちは隙の状態だからリアクションもできないし。なんなのそのドラマ」


達人 「ほら、隙あり! うぅ……、コゲ丸」


吉川 「急にどうした?」


達人 「隙の間に、小さい頃の思い出をたどってしまって。父の転勤の都合で飼っていた犬を親戚に預けなきゃならなくなったんだ」


吉川 「それは悲しいことを思い出させてしまって申し訳ない」


達人 「うぅ……。コゲ丸さん、ワン太郎をよろしくお願いします。好き嫌いしないいい犬なんで。できれば毎日散歩に連れて行ってください」


吉川 「親戚の名前がコゲ丸なの? 独特な一族だな」


達人 「もう隙を見せんでくれ! ワシの身体がもたん!」


吉川 「そんなこと言われたって。そっちが勝手に俺の隙を見てるんじゃ?」


達人 「あぁ、お前の隙の間に人生を振り返ってしまう。まるで走馬灯のように」


吉川 「それはもう俺の隙が技じゃん! そういう特殊能力の人ってこと?」


達人 「え? 私が連帯保証人? コゲ丸さんの!?」


吉川 「コゲ丸最悪の親戚じゃん。走馬灯を見ないで!」


達人 「あぁ、悪くない人生だったな。色々大変だったけど、それも全ていい思い出……」


吉川 「達人、死なないで! 俺の隙の間に人生を全うしないで!」


達人 「はっ!」


吉川 「大丈夫ですか、達人?」


達人 「ボクが達人? いや、確か魔女狩りで火炙りにされたはずなのに……」


吉川 「俺の隙の間に異世界転生までしてきてるじゃん!」



暗転

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