クローズド・サークル

吉川 「こんな殺人鬼がいるホテルになんていられるか!」


藤村 「待つんだ!」


吉川 「もう真っ平だ。お前は勝手に残れ。俺は行かせてもらう」


藤村 「もっとよく考えるんだ。このホテルに閉じ込められたのは12人。そのうち2人はすでに殺されてる」


吉川 「だからだろ! 一刻も早く逃げなきゃ」


藤村 「そうじゃない。ということはだ、残りの10人の中にいるはずなんだ」


吉川 「殺人鬼がだろ!」


藤村 「いや、名探偵だ」


吉川 「なに?」


藤村 「こんなお誂え向きの状況、名探偵がいないわけないだろ」


吉川 「そうなの? 名探偵が?」


藤村 「絶対にいる。俺はあの料理人が怪しいと思ってる」


吉川 「あいつが!? あいつが名探偵なのか?」


藤村 「料理の中にクコの実が入ってると指摘しただろ。普通そんなこと言うか? だいたいクコの実ってなんだよ。クコ自体なんなのかもわからない。見たことない」


吉川 「あるんだろうな。料理につかうもので。好きな人にはわかるようなものが」


藤村 「あれは鋭いキャラを表現する伏線だったと思う」


吉川 「そうなのか? でもそれは名探偵じゃなくて名料理人なんじゃない?」


藤村 「むむむ、確かにその線は捨てきれない。だってあいつ良いやつっぽかったもんな」


吉川 「良いやつじゃダメなのか?」


藤村 「当たり前だろ? 名探偵と言えば性格の悪いことでお馴染みだ」


吉川 「そ、そうなの?」


藤村 「お前は性格のいい名探偵を一人でも知ってるのか?」


吉川 「確かに。言われてみれば全員性格が悪い」


藤村 「そうなると消去法で料理人は消えるか」


吉川 「あのジャーナリストってのは?」


藤村 「ジャーナリストは殺される人だよ。散々引っ掻き回して、他人の過去とかを暴いた挙げ句殺される。あいつはそろそろ死ぬよ」


吉川 「それがわかってるなら教えてあげれば……」


藤村 「教えてどうするんだよ。ジャーナリストになった時点で殺されるのなんて決まってるんだから。本人も承知だよ」


吉川 「そんな覚悟でジャーナリストになるの? 壮絶すぎない?」


藤村 「ジャーナリストは名探偵の脇役には必ずいるがジャーナリストが名探偵だった試しなんて一度もない!」


吉川 「断言した。そうか。あいつ可哀想だな」


藤村 「他のメンツもなぁ……」


吉川 「あの銀行員は?」


藤村 「銀行員も殺されるやつだよ。しかも横領してる。殺されて当然のやつ」


吉川 「決めつけがすぎない?」


藤村 「この状況で横領してない銀行員がホテルに泊まってるほうがおかしいんだよ。別に銀行員に恨みはないが、こうなった以上は既定路線」


吉川 「可哀想。薬剤師のあの人は?」


藤村 「そこなんだよなぁ。薬剤師が名探偵って割といい感じじゃない?」


吉川 「そう? あんまり知らないけど」


藤村 「俺も知らないけど、そういう専門職は名探偵になってもおかしくない。薬に関する謎をズバズバ暴きそうだし」


吉川 「じゃ、あの人だ」


藤村 「ただなぁ。あの人、すごく気遣いだったじゃん」


吉川 「いいことじゃないか」


藤村 「バカ。名探偵ってのはデリカシーが無いものなんだよ」


吉川 「また断言した」


藤村 「デリカシーのある名探偵なんてのは、オタクに優しいギャルと同じで存在しない」


吉川 「無関係なギャルの風評がひどくない?」


藤村 「そういうもんなんだから。だからあの薬剤師はいいところまできてるけど、違うな」


吉川 「性格が悪くてデリカシーが無いやつでしょ?」


藤村 「そう。あのメンツの中で該当するやつがいるかどうか」


吉川 「一人心当たりがあるんだけど」


藤村 「え? そいつだよ。誰だ?」


吉川 「お前」


藤村 「ははは。俺は違うよ。犯人だもん」


吉川 「……ん?」


藤村 「やべっ」



暗転

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る