電話
藤村 「もしもし? オレオレ」
吉川 「なんてトラディショナルなオレオレ詐欺の電話なんだ」
藤村 「そうじゃなくて、俺」
吉川 「だから古いって。今どきもうちょっと凝った騙しの手口があるでしょ」
藤村 「そうじゃないんだよ。なんつーか、俺がお前でお前が俺で」
吉川 「心と身体が入れ替わったみたいに言うなよ」
藤村 「察しが悪いな。あんまり失望させないでくれ」
吉川 「なんなんだ。勝手にくだらない電話かけてきて失望とか言われても知らないよ」
藤村 「俺はお前なの。未来のお前。今、タイム電話でかけてる」
吉川 「ウソつけ! なんだタイム電話って。未来の商品がそんなレトロな発明品っぽい名前のわけないだろ」
藤村 「商品名は別だよ? 俺たちの間ではメーカーの略称で通ってるけどそれを言ってもどうせ通じないだろ? だから一般名称で。ホッチキスじゃなくてステープラーみたいなものだ」
吉川 「なるほど、ちょっとそれっぽいこと言いやがって。でも声がぜんぜん違うだろ」
藤村 「あぁ、まだその時代か。今は個人情報とかややこしいから自動的にボイチェンされるんだよ。特にタイム電話は厳しい」
吉川 「たとえタイム電話というものがあったとして、お前が俺である証拠はないだろ?」
藤村 「シュークリーム!」
吉川 「なんだいきなり?」
藤村 「本人だったらわかるだろという質問をしようとしただろ? その答えはシュークリーム。なぜわかったかというと、俺がそう考えていたから」
吉川 「いや、考えてないけど? 急に答えだけ言われてもまだなにも思いついてない」
藤村 「しまった。俺がそう考える前の段階か」
吉川 「そうなのか。いずれ答えがシュークリームになる本人確認用の質問を思いつくのか、俺は?」
藤村 「多分そのくらいの時に思いついてたはずなんだよ」
吉川 「ちなみに質問はなんだ?」
藤村 「じゃ、それを教えたら俺はお前の未来の姿ということでいいな?」
吉川 「……ん? どういうこと? 全然そういうことじゃないと思うんだけど」
藤村 「結果的に考えてることが同じになるんだから同じ人間というわけだ」
吉川 「う~ん。……ん? 意味がわからない。そうなの?」
藤村 「そうだよ」
吉川 「いや、違う気がするんだけど」
藤村 「そうって言ってるのは俺でつまりそれはお前だから、お前がそうって言ったことと同じだよ。だからそうなんだよ」
吉川 「……あ? 一個もわからないが?」
藤村 「あまりの察しの悪さに我ながら絶望するな」
吉川 「なんかごめん」
藤村 「いいよ。俺のことだから許す」
吉川 「自分で自分を許したのか。なんか自分へのご褒美を上げる女性みたいだな」
藤村 「それ俺も思った! ほらやっぱり」
吉川 「えー。後出しじゃん。それは思ってなくても言えるでしょ。そっちが先に言って俺が思ったならいいけど」
藤村 「なんで信じないかな? 俺はお前が本当に過去の俺なのか信じられなくなってきたよ」
吉川 「お互い様じゃん。だいたい電話ってさ、基本もうかかってこないよ。アプリでやるから」
藤村 「だろ? そう思うだろ? でもアプリはそっちがまずアプリをインストールしなきゃいけないじゃん。電話はさ、もうどのスマホにもついてるから。番号は俺が覚えてるし」
吉川 「そういうものなのか。にわかには信じられないが」
藤村 「その疑り深いところ俺だなー」
吉川 「本当に俺なの?」
藤村 「だからそう言ってるじゃん」
吉川 「わかった。一旦信じることにしよう。で、要件は何?」
藤村 「未来のお前、つまり俺のためにその時点のお前にやって欲しいことがあるんだよ。これは切実な問題だから」
吉川 「そうなの? なにかあるのか? できることならするけど」
藤村 「税金対策のために不動産投資をして欲しい。つきましては資料の方を送らせていただくので……」
吉川 「凝ってるなー!」
暗転
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます