ソロキャンプ

吉川 「ちょっとちょっと、何やってるんですか?」


藤村 「あ、興味あります? 今流行のソロキャンプですよ」


吉川 「ソロキャンプ? え、ここでですか?」


藤村 「はい。ちょっと小高くなっていて景色がいいですし、こうして土の香りに囲まれてるとストレスなんて消えていっちゃうんです」


吉川 「でも、ここ土俵ですよ?」


藤村 「ソロキャンプが始まれば、どこだって私の土俵ですよ」


吉川 「いやいやいや。そういう喩え的なものじゃなくて。相撲の。土俵! 場所中じゃないけど。なに上手いこと言った感じの顔してるんですか」


藤村 「まぁまぁ。落ち着いて。コーヒーでもどうです? こうしてゆっくりコーヒーを淹れるのが……。水あります?」


吉川 「力水なら」


藤村 「素晴らしい。水場も近いしキャンプに最適な場所ですね」


吉川 「相撲に最適な場所なんですよ。神聖なところ! 神様が降りてくるって言われてるんですよ」


藤村 「こうやって豆を挽いてお湯を少しずつ垂らす。ほらなんか甘い香りも漂ってきた」


吉川 「力士の鬢付け油の匂いですよ」


藤村 「軽くなにか食べてもいいけど、ソロキャンプはあんまり凝ったことをすると言うよりも手軽にね、リラックスできるのがいいですね。はい、コーヒー入りましたよ。あとゆで卵でもどうぞ」


吉川 「コーヒーにゆで卵ってモーニングセットみたいの用意しやがって」


藤村 「あ、まずい。塩がない」


吉川 「……ありますが?」


藤村 「あるの!? 最高じゃないですか」


吉川 「味付けのためじゃないんですよ。この塩を使う人、誰一人としてしょっぱくしようと思ってないから」


藤村 「あー、ちょっと近いです。離れて。ソーディンスを保つためにもソロキャンプは最適なんですよ」


吉川 「なんだよ。ソーディンスって。ソーシャルディスタンスのこと? ポケモンみたいな略し方しないでよ」


藤村 「はい。離れて離れて。見合って見合って」


吉川 「相撲ってわかってんじゃん! 全然相撲無視してたから知らないのかと思った」


藤村 「私はあくまでソロキャンプをしてるだけです」


吉川 「だから土俵でやらないでよ。ものすごい怒られるんだよ? 女人禁制とも言われてるんだから。女性ですらダメなのにソロキャンプはOKなわけないでしょ」


藤村 「ちょっと小高いからかな。冷え込んできましたね。ハッキョーィ!」


吉川 「おい! そんなクシャミあるか? はっけよいって言ったじゃん。相撲に寄せてきてるだろ」


藤村 「いいえ。私はあくまでソロキャンプで。ゆで卵もっと食べます? 大量にもってきたから余っちゃって。残った残った」


吉川 「ほら! のこった言ってる! のこったのこったと二回言うことは日常においてありえないからね。一般人ののこったは一回。二回以上は相撲のみ!」


藤村 「残ったにうるさい人だな」


吉川 「のこったにうるさいんじゃなくて相撲にうるさいんですよ」


藤村 「そんなことないですよ。二回言う人もいますよ。よもやよもやだ。のこったのこった」


吉川 「そんな急に行司みたいなことする煉獄さんいないよ!」


藤村 「あんまり干渉してこないでくださいよ。ソロキャンプは一人で完結するところがいいんですから」


吉川 「土俵は何人もの手によって作られてるんだよ。やっちゃダメだよ。ソロキャンプは」


藤村 「二人ならOKってことですか?」


吉川 「いや。キャンプはダメだよ? 何人でもキャンプはダメだよ。数の問題じゃなくて。相撲のみだから」


藤村 「ローションヌルヌル相撲もですか?」


吉川 「そういう特殊なプレジャーを土俵でやりたがる人いないでしょ。なんで場所だけ本格派なの」


藤村 「まぁいいです。私は楽しんだらちゃんと後片付けをして帰りますから。あなたも一人で楽しんでください」


吉川 「ちくしょう! 独り相撲だ」



暗転

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