サブスク
吉川 「最近はなんでもサブスクだね」
藤村 「やっぱり定額で何度もできるってのは精神的に楽なんだよね。かという俺もまた新しいサブスク始めたんだ」
吉川 「へー。どんなの?」
藤村 「ライフサブスク。まだ1ヶ月ちょいだけど結構いいよ」
吉川 「ふぅん。ライフ? ライフって具体的になんなの?」
藤村 「大体サブスクってのは、見放題とか聴き放題とかじゃん。これはね、生き放題」
吉川 「い、生き放題?」
藤村 「そう。毎月定額払えば、その間ずーっと生きてていい」
吉川 「ん~。全然わからないんだけど?」
藤村 「なんでわからないんだ。生きるだろ? 人は」
吉川 「うん。生きてるよ」
藤村 「それが放題なんだよ」
吉川 「んん? わからない。放題になった瞬間になにもわからなくなった」
藤村 「なんでだよ。察しが悪すぎるだろ」
吉川 「ボクの察しの問題なのか? 誰に話してもすぐに消化できること?」
藤村 「話したことないけど。こっちとしてはなにがわからないのかわからない」
吉川 「だって生きるのはさ。別にできるじゃん。サブスクじゃなくても」
藤村 「放題だよ?」
吉川 「それがわからん」
藤村 「普通に生きるのと生き放題じゃ放題のほうがいいに決まってるじゃん」
吉川 「そうなの? 生まれてから一度も放題で生きたいと思ったことないんだけど」
藤村 「率直に言ってしまえば、お前の生き方なんてただ生きてるだけなんだよ。起きて仕事して飯食って疲れて寝て。家賃や税金を払って。たまに遊びに行ってささやかな楽しみを味わう。それを漫然と繰り返してるだけ」
吉川 「悲しくなってきた。シンプルに言語化しないでよ。ボクの人生を」
藤村 「それがこのライフサブスクに登録してご覧なさい。もう朝なんて起き放題。仕事も生き放題で、ごはんはバイキングとかに行けば食べ放題。疲れ放題で寝放題。家賃や税金を払い放題でたまに遊びに行き放題で楽しみ放題で味わい放題」
吉川 「何が違うんだよ!」
藤村 「心の自由が違うだろうが!」
吉川 「やってること一緒じゃんか」
藤村 「たとえやってることが一緒でも気持ちが違う。今の俺は放題なんだと心の奥で思っているだけでストレスが違うから」
吉川 「そういうものなのか? ちなみに月いくらなの?」
藤村 「275円」
吉川 「安いよ! 安すぎるよ! 人生をうたうものでジャンプより安いってことあるか? 逆に心配になるよその値段は」
藤村 「プレミアムコースもあるけど」
吉川 「一応あるんだ。ちなみにプレミアムは何が違うの?」
藤村 「鼻歌も歌い放題」
吉川 「逆に放題じゃないのか? 一般コースは」
藤村 「著作権とか厳しい時代だから」
吉川 「歌ってたよ? ボクは。鼻歌くらい加入せずに」
藤村 「まぁ脱法鼻歌に関してはまだそれほど厳しく取り締まってはいないけど」
吉川 「脱法鼻歌ってなんだよ。そんな事件性を帯びた枕詞つけないでくれ」
藤村 「一般コースだと月2時間までは鼻歌えるんだけどね」
吉川 「微妙なラインを。それわざわざ月2時間以上歌いたいって登録する人いるのか?」
藤村 「わからない。俺は一般コースでやってるから。先月の鼻歌は1時間8分だったし」
吉川 「案外歌ってるな。それにカウントされるのはどういう仕組なんだよ。プレミアムはいくらなの?」
藤村 「これは月285円」
吉川 「じゃ、鼻歌放題にしようよ。ジャンプより安いもん。渋る必要ないだろその金額じゃ」
藤村 「お前そんなに鼻歌歌いたい人だったんだ」
吉川 「別に歌いたいと思ったことはないけど。なんかこう、放題って言われると、したほうがいいのかなって気にはなるよな」
藤村 「それだよ! それがライフサブスクの最大の魅力」
吉川 「そうか。そう言われてみると案外いいかもな。試しに入ってみよう。すぐ登録できるんだ?」
藤村 「ほら、簡単だから。これでお互い生き放題だな」
吉川 「まぁ合わなかったらやめればいいしな」
藤村 「は? やめたら殺し屋が来るけど?」
吉川 「先に言ってよ……」
暗転
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