雪だるま

吉川  「雪だるまつく~ろ」


雪達磨 「私を造ったのはあなたですか?」


吉川  「わぁ! 雪だるまが喋った! 命が吹き込まれたのか?」


雪達磨 「あなたが造ったんですね」


吉川  「なんてファンタジックな。夢みたいだ」


雪達磨 「なんで造ったんですか? 数日と持たない命。友もなく、子孫も残せない。ただ消えるのを待つだけの命を」


吉川  「うわぁ。全然愛せないキャラだ。見た目は雪だるまで可愛いのに」


雪達磨 「人の傲慢さが命を弄んだというわけですか」


吉川  「なんかごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど」


雪達磨 「なぜ、なぜ造った! 殺すために造ったのか? 嘲笑うために造ったのか!」


吉川  「存在がシリアス過ぎる。雪だるまを前にしてこんな背筋が伸びることあるか」


雪達磨 「この身体は、人と温かさですら溶けてしまう。抱きしめてもらうこともできない」


吉川  「芝居が重い。オペラ座の怪人みたいになってる」


雪達磨 「こうして話しているうちにも身体は徐々に溶けていく。いつまで思考ももつことか」


吉川  「雪だるまにこんな罪悪感を背負わされる日が来るとは」


雪達磨 「私とは何だ! 雪だるまとは何なんだ!」


吉川  「哲学的なアプローチまで。雪だるまとは雪で造っただるまですよ」


雪達磨 「嘆いても仕方ない。あらゆる命はやがて消えゆく。私の場合はそれが少し早いだけだ。完全に消え去ってしまう前に、私がここにいた証を残したい! 私をSNSに載せてバズってくれ!」


吉川  「急に俗っぽいこと言い出したな。今までの重さは何だったんだ」


雪達磨 「twitterは性格の悪い中年しかいないからtik tokがいい。若い人が多いから」


吉川  「なんで詳しいんだ。雪だるま業界の情報ヤバいな」


雪達磨 「ラップするから。MC・YUKダルマー・アウト・ザ・ハウス」


吉川  「キャラの振り幅がでかすぎる。アウト・ザ・ハウスってはじめて聞いたな。確かに家の外だが」


雪達磨 「熱いフローでフロアを沸かすぜ」


吉川  「全然雪だるまというキャラクターを活かしてないじゃん」


雪達磨 「あ、ダメだ。気持ちを盛り上げたら溶けてきた」


吉川  「ちょっと雪を足してあげよう」


雪達磨 「早く足して。思考がもたない。……だる……うま……」


吉川  「バイオハザードみたいになってる。頑張れ」


雪達磨 「ふぅ、やばかった。やっぱり慣れないことはするもんじゃない。若者に迎合してtik tokでバズろうとしたのが間違いだった」


吉川  「内省的な性格だったから仕切り直しも早い」


雪達磨 「twitterでバズるには何かの悪口とか言ったほうがいいかな?」


吉川  「穿った攻め方をするなぁ。もっと可愛さを全面に押し出せばいいのに」


雪達磨 「そんなんじゃダメだ。twitterやってるやつらなんて他人をこき下ろして悦に浸ることでしか自分を肯定できないクズなんだから」


吉川  「よし、今の発言を撮ったぞ。早速アップしよう」


雪達磨 「やめてくれ! 炎上してしまう」


吉川  「火だるまになっちゃうな」



暗転

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